介護BCPの研修と訓練を同じ日に済ませる方法|90分の時間割と、記録を2つに分ける書き方
「研修と訓練を別々の日に集まるのは、シフト的にもう無理。同じ日にまとめてしまっていいのだろうか」——年度の後半になると、特によく聞く相談です。
結論から言うと、研修と訓練は同じ日に行えます。条件は2つだけです。時間を「前半は研修・後半は訓練」にはっきり分けること、そして記録を研修と訓練で別々に残すこと。この2つがそろっていれば、1回の集まりで、研修の時間と訓練の時間をそれぞれ確保できます。
この記事では、同日開催が失敗しやすいパターン、そのまま使える90分の時間割、記録の書き分け方、欠席者のフォロー、そして制度上の回数と減算の関係を、元自衛官・気象予報士の視点で整理します。
1. 【結論】同日開催はできる。分けるのは「時間」と「記録」
まず結論からお伝えします。
- 研修と訓練は同じ日に行える。ただし「研修+訓練=1回」ではなく、研修と訓練は別々に数えるのが基本。
- 分けるのは「時間」:前半を研修、後半を訓練にして、間に切り替えを入れる。研修の中に訓練を混ぜない。
- 分けるのは「記録」:研修の記録と訓練の記録を別々に作り、それぞれに開始・終了時刻、内容、参加者を書く。
同日開催には、実はメリットもあります。研修で伝えた手順を、その日のうちに訓練で試せることです。別の日に分けると、訓練の日には研修の内容を半分忘れています。同じ日にやれば「さっき聞いた手順が、実際にはこう詰まる」がその場で分かります。
▲ 1回の集まりでも、時間と記録は研修と訓練で分ける
2. なぜ同日開催は失敗しやすいのか
同日開催そのものは問題ではありません。失敗するのは、まとめ方です。現場でよく見かける3つのパターンを整理します。
| 失敗パターン | 何が起きるか |
|---|---|
| ① 訓練が「付け足し」になる | 研修の読み合わせが長引き、最後の10分で「では地震が来たら、どう動きますか」と口頭で聞いて終わる。これでは訓練の時間がほとんど取れていない |
| ② 記録が1枚に「防災研修」 | 研修と訓練の区別なく「防災研修」とだけ書く。運営指導の場で「訓練は何回やりましたか」と聞かれても、記録から示せない |
| ③ 研修と訓練のテーマがずれる | 研修は感染症、訓練は地震というように、前半と後半がつながらない。同日開催のいちばんのメリットである「聞いたことをすぐ試す」が生きない |
3つとも、職員の意欲の問題ではなく、時間割と記録の設計で防げます。研修と訓練の目的の違いそのものは「介護BCPの「研修」と「訓練」は何が違う?」で詳しく解説しています。
3. そのまま使える90分の時間割
勤務の重なる時間帯に、90分確保できる前提の例です。研修と訓練のテーマは、必ず同じものにそろえます(例:夜間の地震発生時の初動)。
| 時間 | 内容 | 区分 | 記録に書くこと |
|---|---|---|---|
| 0〜30分 | BCPの要点と役割分担の確認 | 研修 | テーマ・使った資料・講師・参加者 |
| 30〜35分 | 切り替え(休憩・席替え) | ─ | ─ |
| 35〜80分 | 机上訓練(状況付与カード3枚) | 訓練 | シナリオ・判断の内容・所要時間 |
| 80〜90分 | 振り返り(課題の書き出し) | 訓練 | 見つかった課題・改善事項・担当と期限 |
前半30分(研修):その日の訓練で使う範囲だけを伝える
BCP全体を読み合わせる必要はありません。その日の訓練で試す範囲——たとえば「夜間に地震が起きたときの最初の30分で、誰が何をするか」——に絞って、計画書の該当ページ、連絡網、役割分担を確認します。範囲を絞るほど、後半の訓練で「聞いたのにできない」がはっきり見えます。
5分の切り替え:時間の区切りを目に見える形にする
休憩を挟み、机の配置を変えます。研修は講師に向かって座り、訓練はテーブルを囲んで座る。小さなことですが、参加者の頭が「聞く」から「決める」に切り替わり、記録の上でも研修と訓練の時刻がはっきり分かれます。
後半45分(訓練):状況を小出しにして、判断させる
シナリオを事前に配らず、状況付与カードを3枚に分けて、時間を進めながら1枚ずつ配ります。1枚目は「23時、震度6弱。停電」、2枚目は「夜勤者1人が利用者の転倒対応で動けない」、3枚目は「管理者と連絡がつかない」というように、少しずつ厳しくしていきます。進行役は答えを言わず、参加者に「誰が、何を、どの順で」を決めてもらいます。紙3枚で回す具体的な進め方は「介護BCPの机上訓練を自前でやる手順」、題材の例は「介護BCP訓練はどう進める?そのまま使えるシナリオ3例」で紹介しています。
最後の10分(訓練の振り返り):課題を「担当と期限」まで書く
振り返りでは、感想ではなく「計画どおりに動けなかったところ」を書き出します。ここで出た課題は、訓練の記録の「改善事項」にそのまま書き写します。担当者と期限まで決めておけば、次の研修のテーマがそのまま決まります。
教えたことは、その日のうちにやらせてみる。私が現場で大事にしてきた考え方です。座学で聞いた手順は、聞いた直後がいちばん「分かったつもり」になっています。そこで実際に判断させると、分かったつもりと、実際にできることの差がその場で見えます。訓練でできないことは、本番でもできません。だからこそ、同日開催の後半は「うまくやる時間」ではなく、「できないところを見つける時間」にしてください。もう一つ、振り返りでは誰が間違えたかではなく、なぜそう判断したかだけを聞くこと。間違いを責められる場では、次の訓練から誰も本音で判断しなくなります。
4. 記録を2つに分ける書き方
同日開催でいちばん大切なのは、記録です。研修の記録と訓練の記録を、別々に作ります。
| 項目 | 研修記録 | 訓練記録 |
|---|---|---|
| 種別 | 研修 | 訓練(机上)または訓練(実地) |
| 時刻 | 例:14:00〜14:30 | 例:14:35〜15:30 |
| 内容 | テーマと使った資料、講師 | シナリオ、判断の内容と所要時間 |
| 結果 | 理解度の確認(質問・小テスト等) | 見つかった課題と改善事項(担当・期限) |
| 参加者 | 研修に参加した職員 | 訓練に参加した職員 |
ポイントは3つです。1つ目は、開始・終了時刻を別々に書くこと。同じ日付でも、時刻が分かれていれば研修と訓練が別の時間に行われたことが一目で分かります。2つ目は、参加者名簿をそれぞれに付けること。途中から来た職員、途中で抜けた職員がいれば、どちらに参加したかが分かるようにします。3つ目は、訓練記録に「課題」を必ず書くこと。訓練は計画の穴を見つけるためのものなので、課題が空欄の記録は「確認しただけ」に見えてしまいます。
記録様式の必須項目と書き方の例は「介護BCP研修・訓練の「記録様式」はどう書く?」で詳しく解説しています。運営指導で記録がどう見られるかは「介護施設の運営指導でBCPはどこを見られる?」をご覧ください。
5. 欠席者のフォローと、年間計画への組み込み方
欠席者:研修は録画で補い、訓練は短時間で別に行う
シフト制の現場では、全員が同じ日に集まることはほぼできません。研修部分は、当日の様子を録画するか資料を残しておき、後日視聴してもらい、小テストや感想の提出で受講の記録を残します。一方、訓練部分は映像を見ただけでは行動の練習になりにくいため、別の日に15分程度の短い訓練(安否確認の一斉送信、避難経路の確認など)を行い、その記録を残して補うのが現実的です。少人数で短く回す方法は「小規模の介護事業所でもできるBCP研修のやり方」が参考になります。
年間計画:同日開催の日付を、季節に合わせて置く
年2回以上が必要な施設なら、同日開催を年2回行うと、研修の時間と訓練の時間を年2回ずつ確保できます。ただし、感染症と自然災害をそれぞれ年2回ずつ求める自治体もあるため、テーマの割り振り(1回ずつでよいか、それぞれ2回か)は、年間計画を立てる前に指定権者に確認してください。年1回以上のサービスでも、同日開催にしておくと「研修だけやって訓練が抜けていた」を防げます。
自然災害をテーマにした同日開催は、出水期(多くの地域で6月から)に入る前の5月ごろに置くのがおすすめです。前半の研修で警戒レベルの意味を確認し、後半の訓練で「警戒レベル3(高齢者等避難)が出た。いま動くか」を判断させる。介護施設は要配慮者利用施設ですから、避難を始めるトリガーはレベル3です。研修で聞いた直後にこの判断を迫られると、「知っている」と「決められる」が違うことを、参加者自身が実感します。自施設の浸水や土砂災害のリスクは、重ねるハザードマップ(国土交通省)で事前に確認し、状況付与カードの中身に反映させてください。秋から冬に行う回は、停電や大雪、感染症など、その季節に起きやすいテーマを選ぶと、研修と訓練の両方が現実味を帯びます。
6. 自前で続けたときの限界と、その先の選択肢
ここまでの時間割と記録の分け方は、外部に頼まなくても今日から始められます。まずは次回、「時刻を分けて、記録を2つ作る」ことだけでも試してください。そのうえで、自前で続けると残りやすい限界も正直にお伝えします。
- 前半の研修講師と後半の訓練の進行役を同じ人が兼ねると、訓練の展開を知っている人が進めることになり、状況付与が「想定の範囲内」に収まりやすい。
- 振り返りで課題を言葉にするには、進行役が「なぜその判断になったか」を引き出す必要がある。慣れるまで、感想の共有で終わりやすい。
- 同じ職員・同じ題材で回数を重ねると、参加者が展開を先読みするようになる。
これらには、進行役を法人内の別事業所と交換する、題材を年度ごとに変える、といった自前の工夫が先です。それでも残る場合の選択肢が、外部の進行役を使うことです。費用の相場と選び方は「介護BCP訓練を外部に頼む費用相場は?」で整理しています。
ソラタテでも、1回の実施で研修パートと訓練パートを行う机上訓練ゲーム「アサマデ」(2時間・120分)をご用意しています。研修パートと訓練パートを時間帯で分け、実施記録にも区分を明記する構成です(研修・訓練としてのカウント方法は指定権者へご確認ください)。ただし、自前の同日開催を一度試す前に外部に頼むのはおすすめしません。自前で回してみると、自施設でどこが詰まるかが見え、外部に何を頼むべきかがはっきりします。
7. 制度の根拠:回数・手法・減算の関係
最後に、研修と訓練が制度上どう位置づけられているかを確認しておきます。
回数はサービス形態で決まる(研修と訓練は別カウント)
| 回数区分 | 対象サービス |
|---|---|
| 年2回以上 | 居住系(特定施設・地域密着型特定施設・認知症グループホーム)と施設系(特養・地域密着型特養・老健・介護医療院) |
| 年1回以上 | 訪問系・通所系・居宅介護支援・短期入所(生活/療養)・多機能系(小多機・看多機) |
※ 研修は、新規採用時にも別に実施します。施設系・居住系(年2回以上のサービス)では「新規採用時には別に研修を実施すること」、訪問系・通所系など年1回以上のサービスでは「実施することが望ましい」とされています(解釈通知)。
研修と訓練は別々に数えます。同じ日に行っても、研修1回・訓練1回として別々に数えるのが基本の考え方で、そのために時間と記録を分けておく必要があります。ただし、同日開催の数え方や、自然災害と感染症をどう組み合わせるかの運用は、指定権者(都道府県・市町村)によって異なる場合があります。年間計画を立てる段階で、所管の自治体に確認しておくと安心です。回数の詳細は「介護BCPの研修・訓練は年に何回必要?」で解説しています。
訓練の手法は問われないが、組み合わせが求められる
厚生労働省の解釈通知は、訓練について「机上を含めその実施手法は問わないものの、机上及び実地で実施するものを適切に組み合わせながら実施することが適切」としています。この記事の時間割は机上訓練の例です。年間のどこかで、避難経路の歩行確認や安否確認の一斉送信など、実地の訓練も組み合わせてください。
減算の要件——研修・訓練の未実施は減算の算定要件ではない
業務継続計画未策定減算の減算率は、施設・居住系サービスが所定単位数の3%、その他(訪問系・通所系など)が1%です。減算の対象になるのは、BCPが未策定の場合、または必要な措置が実施されていない場合です。研修・訓練の未実施は運営指導の指摘対象になりますが、減算の算定要件には含まれません(令和6年度介護報酬改定Q&A Vol.1)。
経過措置については、BCPの策定・研修・訓練の義務は2024年4月から全サービスで適用されています(居宅療養管理指導のみ、経過措置が2027年3月末まで延長されています)。訪問系サービス・福祉用具貸与等への減算適用の経過措置は2025年3月末で終了し、現在は全面適用されています。居宅療養管理指導と特定福祉用具販売は、業務継続計画未策定減算の対象外です。スケジュールの整理は「介護BCPはいつまでに策定?」をご覧ください。
8. よくある質問(FAQ)
Q1. 研修と訓練を同じ日に行っても、それぞれ1回として数えられますか?
結論から言うと、同じ日に行っても、研修と訓練は別々に数えるのが基本の考え方です。そのためには、研修の時間と訓練の時間を分け、それぞれの開始・終了時刻、内容、参加者を別の記録に残しておくことが前提になります。同日開催をどう数えるかの運用は指定権者(都道府県・市町村)によって異なる場合があるため、年間計画を立てる段階で所管の自治体に確認しておくと安心です。
Q2. 研修と訓練の記録は、1枚にまとめてはいけませんか?
結論から言うと、記録の様式は法令で定められていないため、1枚にまとめること自体が禁止されているわけではありません。ただし、1枚に「防災研修」とだけ書くと、運営指導の場で研修と訓練をそれぞれ何回実施したかを示しにくくなります。1枚にまとめる場合でも、研修欄と訓練欄を分け、種別・時刻・内容・参加者・課題をそれぞれに書いておくことをおすすめします。
Q3. 当日参加できなかった職員は、どう扱えばよいですか?
結論から言うと、研修部分は、当日の録画や資料を使って後日視聴してもらい、小テストや感想の提出で受講の記録を残す方法が一般的です。訓練部分は、映像を見ただけでは行動の練習になりにくいため、別の日に15分程度の短い訓練(安否確認の一斉送信や避難経路の確認など)を行い、その記録を残して補うのが現実的です。欠席者が多い職種や勤務帯があれば、次回の開催時間を見直す材料にもなります。
9. おわりに:まとめるのは「日」だけ、中身は分ける
研修と訓練を同じ日に行うのは、手抜きではありません。聞いたことをその場で試せる、むしろ効果の高いやり方です。ただし、まとめてよいのは「日」だけです。時間と記録は、研修と訓練で必ず分けてください。
前半30分で伝え、5分で切り替え、後半で判断させ、最後の10分で課題を書く。そして記録を2つ作る。この形が回り始めると、訓練で見つかった課題が次の研修のテーマになり、研修と訓練が年間を通してつながっていきます。
「うちのシフトで同日開催をどう組めばいいか相談したい」「記録の書き分けを見てほしい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「本当に動ける危機管理ノウハウ」で、御施設の研修・訓練づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。
主な出典・参考
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」ほか各サービスの解釈通知(業務継続計画の策定等:研修・訓練の回数、新規採用時の研修、机上及び実地の組み合わせ)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」(業務継続計画未策定減算の要件)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(研修・訓練の位置づけ)
- 内閣府「避難情報に関するガイドライン」(警戒レベル3 高齢者等避難)
- 国土交通省「重ねるハザードマップ」
※ 本記事の内容は2026年10月時点の情報です。研修・訓練の数え方や減算の届出の取扱いは自治体によって異なる場合があるため、所管の指定権者にご確認ください。
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