介護BCPの「研修」と「訓練」は何が違う?回数の数え方と記録の分け方

左は会議室での座学研修、右はヘルメットを着けて担架で利用者を搬送する実地訓練。研修と訓練の違いを左右で対比した図。

「BCPの研修も訓練も、年2回やっています」——そう答えた施設で、よく聞くとその中身が「マニュアルの読み合わせを年2回」だけだった、というケースがあります。これだと、研修は足りていても訓練が0回です。

研修と訓練は、名前が似ているうえに現場では区別せず「防災の勉強会」とまとめて呼ばれがちです。しかし制度上は目的も形式も回数の数え方も別のもので、記録も分けて残す必要があります。この記事では、両者の違いを整理し、合同開催した場合の数え方や記録の分け方まで、元自衛官・気象予報士の視点で解説します。

1. 【結論】目的が違う。だから両方いる

まず結論からお伝えします。研修と訓練の違いは、次の一行に尽きます。

  1. 研修は「知識を伝える」もの。全員の理解をそろえるために行う。
  2. 訓練は「行動を練習する」もの。計画の課題を見つけるために行う。
  3. 回数は別カウント。記録も種別を分けて残す。

頭で分かっていることと、実際にできることは別です。だから両方が必要になります。研修だけでは動けず、訓練だけでは何のためにその動きをするのかが共有されません。

研修と訓練の比較表。研修は、目的=知識を伝える、形式=座学・読み合わせ・動画、回数=入所系 年2回以上/通所・訪問系 年1回以上、記録=種別を「研修」と明記、ねらい=全員の理解をそろえる。訓練は、目的=行動を練習する、形式=机上訓練・実地訓練、回数は研修と同じ、記録=種別を「訓練(机上/実地)」と明記、ねらい=課題を見つける。下部に「研修と訓練は別カウント。両方が必要」「同じ日にまとめて実施してもよいが、それぞれ規定回数の実施が必要」と記載。

▲ 研修と訓練のちがい(目的・形式・回数・記録・ねらい)

2. 研修とは何か(知識を伝える)

研修は、策定したBCPの内容を職員全員に周知し、理解してもらうための時間です。

目的知識を伝え、全員の理解をそろえる
形式座学、マニュアルの読み合わせ、動画視聴、講師による講義
内容の例災害時の連絡網の確認、役割分担、感染症発生時のゾーニングのルール、備蓄品の保管場所
参加できない職員への対応録画動画の視聴+小テストやレポートの提出で補完し、全員が受講した記録を残す

ポイントは、「全員が同じ理解を持っている状態」をつくることです。夜勤者やパート職員を含め、誰が読んでも同じ判断ができる状態を目指します。

3. 訓練とは何か(行動を練習する)

訓練は、研修で学んだ内容を実際に試してみる時間です。大きく机上訓練と実地訓練に分かれます。

種類やること向いている場面
机上訓練会議室に集まり、シナリオに沿って「この状況で何をするか」を議論・判断する判断の流れや役割分担の確認。短時間で実施しやすい
実地訓練実際に体を動かす。避難誘導、担架搬送、個人防護具(PPE)の着脱、非常用電源の起動手順が体で覚えられているかの検証

訓練のもう一つの役割が「計画の検証」です。想定外のトラブル(停電でエレベーターが使えない、鍵の保管場所が分からない等)を盛り込むことで、BCPの穴が見つかります。

訓練で使えるシナリオは、関連記事「介護BCP訓練はどう進める?そのまま使えるシナリオ3例」で紹介しています。机上訓練と実地訓練の使い分けは「机上訓練と実地訓練の違い」をご覧ください。
専門家コメント|元航空自衛官・危機管理の視点

知識を伝える場と、体を動かす場は、はっきり分けて考える必要があります。座学で手順を頭に入れることと、その手順を実際にやってみることの間には、大きな隔たりがあるからです。訓練でできないことは、本番では絶対にできません。

そして訓練は、うまくいくことが目的ではありません。できないことを見つけるのが目的です。台本どおりに全員が完璧に動けた訓練は、達成感はありますが得るものが少ない。「鍵が開かない」「指示役が不在」といった想定外を投げ込んで、はじめて計画の弱点が見えてきます。

4. 回数はそれぞれ別に数える

ここが最も間違えやすいところです。研修と訓練は、それぞれ別に回数を数えます。

サービス形態研修訓練
入所系・施設系
(特養・老健・認知症GH など)
各年2回以上各年2回以上
通所系・訪問系
(デイ・訪問介護・訪問看護 など)
各年1回以上各年1回以上

つまり入所系の施設であれば、年間で研修2回+訓練2回=合計4回の実施が必要になります。「防災の集まりを年2回やった」だけでは、研修2回・訓練0回と判断されるおそれがあります。

回数は「自然災害か感染症か」ではなくサービス形態で決まります。ただしBCP自体は感染症と自然災害の両方の策定が義務付けられているため、研修・訓練の内容も両テーマをカバーするのが望ましい運用です。入所系なら「自然災害の研修・訓練を各1回」「感染症の研修・訓練を各1回」で合計を満たす形が一般的ですが、両テーマを1回の研修・訓練にまとめてよいか、それぞれ分けるべきかは指定権者(自治体)によって解釈が分かれる場合があるため、所管の自治体に確認することをおすすめします。詳しくは「BCP研修は年何回?介護施設は年2回・訪問通所は年1回」をご覧ください。
減算との関係:業務継続計画未策定減算の対象は、BCPが未策定、または計画に従った必要な措置を講じていない場合です(施設・居住系は所定単位数の3%、その他のサービスは1%)。研修・訓練の未実施そのものは減算の算定要件ではありませんが、運営基準上の義務であるため、運営指導で指摘・是正の対象となります。

5. 記録も分けて残す

実施したら記録に残しますが、このとき「研修」「訓練」の種別を明記してください。まとめて「防災研修」と書いてしまうと、あとから何を何回実施したのかが分からなくなります。

記載する種別書き方の例
研修種別:研修/テーマ:自然災害BCPの読み合わせ
訓練(机上)種別:訓練(机上)/シナリオ:夜間の地震発生
訓練(実地)種別:訓練(実地)/内容:担架搬送・避難誘導

この一行があるだけで、運営指導のときに「研修は年2回、訓練は年2回、それぞれ実施しています」と示せます。

記録様式の必須項目(日時・種別・参加者・内容・評価・改善事項)と、次に活かすための「気づいた課題」の書き方は、関連記事「介護BCP研修・訓練の「記録様式」はどう書く?」で詳しく解説しています。

6. よくある混同の例

実際によく見かける、判断に迷うパターンを整理します。

ケースどう扱うか
研修と訓練を同日にまとめて実施した実施は可能。ただし回数は研修1回・訓練1回としてそれぞれカウントする(1回にまとまるわけではない)
マニュアルの読み合わせだけを行った研修にあたる。訓練としては数えにくい
動画を視聴してもらった研修にあたる。視聴のみでは訓練として扱いにくい
消防法の避難訓練を実施したBCPの観点(事業継続・重要業務の優先順位・外部連携)を含んだシナリオと検証を行えば、BCP訓練として兼ねられる場合がある
オンラインで机上訓練を行った画面越しにシナリオを提示し参加者に判断させる形であれば、訓練として成立する
※ 消防訓練とBCP訓練を兼ねる場合は、消防側とBCP側の両方の記録を残し、最終的には所管の消防署と指定権者の双方に確認することをおすすめします。根拠となる法令(消防法/介護保険の運営基準)も提出先も別のため、片方の記録しか残っていないという事態を防げます。

また、兼ねられるかどうかの判断そのものも、指定権者(都道府県・市町村)によって運用に幅がある場合があります。迷う場合は所管の自治体に事前確認することをおすすめします。
専門家コメント|気象予報士・災害リスク分析の視点

気象災害では「いつ動くか」の判断が結果を分けます。研修で警戒レベルの意味を全員が理解していても、実際にレベル3(高齢者等避難)が出たときに誰が判断し、誰が動くかは訓練でしか身につきません。

おすすめは、研修と訓練で扱う災害を年間でずらすことです。水害の研修と訓練は出水期に入る前の5〜6月に、地震は時期を問わず——というように配置すると、その時期に本当に必要な知識と行動が結びつきます。年間計画を立てるときに、季節も一緒に考えてみてください。

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7. よくある質問(FAQ)

Q1. 介護BCPの「研修」と「訓練」は何が違うのですか?

結論から言うと、研修は知識を伝えるもの、訓練は行動を練習するものです。研修は座学・読み合わせ・動画視聴などの形で実施し、訓練は机上訓練や実地訓練の形で実施します。目的も形式も異なる別のもので、回数もそれぞれ別に数えます。入所系(施設系)は研修・訓練とも各年2回以上、通所・訪問系はいずれも各年1回以上が目安です。

Q2. 研修と訓練を同じ日にまとめて実施してもよいですか?

結論から言うと、同日実施は可能です。前半に手順の確認(研修)、後半にそのシナリオで体を動かす(訓練)というセット実施は学習効果が高いため推奨されます。ただし、まとめて実施しても回数が1回にまとまるわけではなく、研修と訓練はそれぞれ規定回数の実施が必要です。記録にも「研修」「訓練」の種別を分けて残してください。

Q3. オンラインの動画視聴だけでも訓練として認められますか?

結論から言うと、動画視聴は基本的に研修にあたります。訓練は実際に体を動かす、あるいは机上でシナリオに沿って判断する演習を指すため、視聴のみでは訓練として扱いにくいのが一般的です。なお、机上訓練はオンラインでも実施可能で、画面越しにシナリオを提示して参加者に判断させる形であれば訓練として成立します。判断に迷う場合は所管の指定権者へご確認ください。

8. おわりに:知って、動けて、はじめて備え

研修と訓練の違いは、突き詰めると「知っている」と「できる」の違いです。どちらか一方では、災害時に利用者を守れません。

まずは今年の実施内容を振り返って、研修が何回、訓練が何回だったかを数え直してみてください。「防災の集まり」としてまとめていたものを分けてみると、片方が足りていないことに気づく施設は少なくありません。

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主な出典・参考

  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」(研修・訓練の実施に関する記載)
  • 各サービスの運営基準・解釈通知における研修・訓練の実施頻度に関する規定
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A」(業務継続計画未策定減算の取扱い)

※ 回数の数え方や、他の訓練と兼ねられるかどうかの判断は、指定権者(都道府県・市町村)により運用が異なる場合があります。最新の情報は所管の自治体・公式情報をご確認ください。

気象予報士
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元自衛官
西 倫弘(にし ともひろ)
気象予報士・元航空自衛官
航空自衛隊で培った危機管理の実務と、気象予報士としての災害リスク分析を掛け合わせ、介護施設のBCP策定支援と体験型防災研修を提供。「書類で終わらせない、本当に動ける防災」を全国の施設へ届けています。

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