訪問介護のBCP訓練はどう作る?「移動中に被災」を織り込む3つのシナリオ例

利用者宅へ向かう訪問介護のヘルパーがスマートフォンで災害警報を確認している様子。背景に事業所の車と住宅、上部に「移動中」「訪問先」「事業所」の3場面を示す円。

「BCPの訓練シナリオを探したけれど、出てくるのは施設向けばかり」——訪問介護の管理者から、よく聞くお悩みです。避難誘導や夜勤帯の初動を想定した施設系のシナリオは、ヘルパーが1人で利用者宅へ向かう訪問介護には、そのままでは当てはまりません。

訪問系の難しさは、職員が施設という「箱」の外にいることです。発災した瞬間、どこにいるかは人によって違い、指揮する管理者はその場にいません。この記事では、訪問介護のBCP訓練を「移動中」「訪問先」「事業所側」の3視点で組み立てる方法を、そのまま使えるシナリオ例とともに、元自衛官・気象予報士の視点で解説します。

1. 【結論】訪問系は「3つの視点」で組むと穴が減る

まず結論からお伝えします。訪問介護のBCP訓練で欠かせないのは、次の3点です。

  1. 3つの発災場所で考える:移動中・訪問先・事業所。どこで起きるかで、動く人も判断も変わる。
  2. 「誰が判断するか」を場面ごとに決める:その場の安全はヘルパー、業務の継続可否は事業所。
  3. 報告のルールを数字で決める:連絡が来ないこと自体を異常と判断できる仕組みにする。

訪問系の訓練は、施設系のように「全員が同じ場所に集まって動く」形にはなりません。バラバラの場所にいる職員を、情報でつなぐ——これが訓練の主題になります。

2. なぜ施設系の訓練をそのまま使えないのか

施設系と訪問系では、災害時の前提条件が大きく異なります。

観点施設系(特養・老健など)訪問系(訪問介護など)
職員の居場所施設内に集まっているバラバラ(移動中・利用者宅・事業所)
指揮する人その場にいるその場にいない
利用者の居場所施設内で把握できるそれぞれの自宅
環境設備も動線も把握済み利用者宅ごとに異なる
主な訓練内容避難誘導・安否確認・初期消火連絡・状況報告・訪問継続の判断

特に大きいのが「指揮する人がその場にいない」という点です。施設系の訓練は「本部を立ち上げて指示を出す」流れが中心ですが、訪問系ではヘルパーが単独で最初の判断をせざるを得ない場面が必ず生じます。その前提で訓練を設計する必要があります。

訪問介護のBCP訓練シナリオ3例。①移動中に被災(発災場所:車での移動中/判断する人:ヘルパー本人/道路寸断・利用者宅へ到着不可を想定)②訪問先で被災(利用者宅/ヘルパー+事業所/利用者と孤立・避難の判断を想定)③事業所側の指揮(事業所/サービス提供責任者/複数ヘルパーの安否集約・訪問中止判断)。

▲ 発災場所と判断する人で整理した、訪問系の3シナリオ

3. シナリオ①「移動中に被災」

最初のシナリオは、次の利用者宅へ向かう移動中に発災する想定です。訪問系でもっとも起こりやすく、かつ訓練で扱われにくい場面です。

想定する状況

発災場所車(または自転車)での移動中
判断する人ヘルパー本人
起きること道路の寸断・信号の停止・渋滞で、次の利用者宅へ到着できない

訓練で確認したいこと

① まず何をするか:安全な場所へ停車し、自分の安全を確保する。その次に事業所へ第一報を入れる。
② 何を報告するか:「自分は無事か」「今どこにいるか」「動けるか」の3点を短く伝える。
③ 次にどう動くか:予定していた訪問へ向かうのか、引き返すのか、その場で待機するのか——判断するのは事業所であることを全員が理解しているか。

ここでよくある課題が「ヘルパーが自分で判断して訪問を続けてしまう」ことです。責任感からの行動ですが、道路状況や余震のリスクを把握しているのは事業所側です。「業務の継続可否は事業所が決める」というルールを、訓練の場で明確にしておきましょう。

4. シナリオ②「訪問先で被災」

2つ目は、サービス提供中に利用者宅で発災する想定です。ヘルパーと利用者が2人だけ、という状況で何ができるかを確認します。

想定する状況

発災場所利用者宅(サービス提供中)
判断する人ヘルパー + 事業所
起きること利用者と2人で孤立。避難すべきか、その場に留まるかの判断が必要になる

訓練で確認したいこと

① 利用者の安全確保:その場で身を守り、けがの有無を確認する。
② 事業所への連絡:「利用者宅にいること」「利用者と自分の状態」を伝える。
③ 避難の判断:その家が浸水想定区域や土砂災害警戒区域に入っていないか。訪問前から把握できているかが問われます。
④ 家族への連絡:利用者の家族へ誰がどう伝えるか。ヘルパーが直接か、事業所経由か。

利用者宅の災害リスクは、国土交通省「重ねるハザードマップ」で事前に確認できます。訓練の前に、担当エリアの利用者宅がどの区域に入るかを一度確認しておくと、シナリオが一気に具体的になります。詳しくは関連記事「介護施設の災害リスクの調べ方」をご覧ください。
専門家コメント|気象予報士・災害リスク分析の視点

訪問系は「訪問中止の判断基準」を平時から数字で決めておくことが特に大切です。介護施設利用者宅は避難行動要支援者に含まれることが多く、要配慮者利用施設と同じく警戒レベル3(高齢者等避難)の段階では利用者側も避難を始める立場になります。ヘルパーが向かう最中に避難指示(レベル4)が出るような状況を訓練で想定し、事業所側から中止指示を出せる体制を作ってください。

5. シナリオ③「事業所側の指揮」

3つ目は、事業所側から見た訓練です。①②がヘルパー個人の動きだとすれば、こちらは全体をまとめる側の訓練になります。

想定する状況

発災場所事業所
判断する人管理者・サービス提供責任者
起きること複数のヘルパーが各所に散っている状態で、安否と稼働状況を把握しなければならない

訓練で確認したいこと

① 安否の集約:誰から連絡が来て、誰から来ていないかを一覧で管理できるか。
② 訪問の中止判断:本日の残りの訪問をどうするか。中止する場合、全ヘルパーへどう伝えるか。
③ 利用者側の確認:訪問できなかった利用者の安否を、どう確認するか(家族・ケアマネ・近隣との連携)。
④ 優先順位の判断:全員は回れない前提で、誰を優先するか。医療的ケアが必要な利用者、独居の利用者などの基準を決めておく。

専門家コメント|元航空自衛官・危機管理の視点

訪問系の難しさは「指揮官が現場にいない」ことです。自衛隊でも遠隔地の部隊とやり取りする時は、報告の様式・時間・頻度を厳格に決めます。ヘルパー1人ひとりが「◯分ごとに事業所へ現在地と状態を報告」とルール化しておけば、無音になった時点で異常と判断できます。連絡が来ないことこそ、事業所側が動くトリガーです。

安否確認の手段は、電話1本に頼らず多重化しておくことが大切です。連絡網の作り方や、電話がつながらないときの代替手段(171・web171・SNS)については、関連記事「利用者・職員の「安否確認」体制の作り方」で詳しく解説しています。
\ 無料・登録不要・約3分 /
あなたの事業所のBCPは「動ける」?18問でスコア判定
策定・訓練・実効性・災害リスク・体制の5分野を100点満点で診断。改善点がその場で分かります。 ▶ 診断をはじめる

6. 訓練の回数と、記録の残し方

訪問介護を含む通所・訪問系サービスは、研修・訓練のいずれも年1回以上が目安です。研修と訓練はそれぞれ別に数えるため、「研修を年1回」と「訓練を年1回」の両方を実施する必要があります。

サービス形態研修訓練
入所系・施設系各年2回以上各年2回以上
通所系・訪問系各年1回以上各年1回以上

記録には、種別を「訓練(訪問系シナリオ)」と明記しておくと、運営指導の際に「研修と訓練をそれぞれ実施している」ことを示しやすくなります。あわせて、どのシナリオで実施したか(移動中/訪問先/事業所側)も残しておくと、翌年に別の想定へ切り替えやすくなります。

なお、業務継続計画未策定減算の対象は、BCPが未策定、または計画に従った必要な措置を講じていない場合です(訪問系サービスの減算率は所定単位数の1%)。研修・訓練の未実施そのものは減算の算定要件ではありませんが、運営基準上の義務であるため運営指導での指摘対象となります。記録様式の作り方は「BCP研修・訓練の「記録様式」はどう書く?」をご覧ください。

7. 訪問介護のBCP訓練に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 訪問介護のBCP訓練は年に何回必要ですか?

結論から言うと、訪問介護などの通所・訪問系サービスは、研修・訓練のいずれも年1回以上が目安です。研修と訓練は別々に数えるため、「研修を年1回」と「訓練を年1回」の両方が必要になります。なお、業務継続計画未策定減算の対象は、BCPが未策定または計画に従った必要な措置を講じていない場合で、訪問系サービスの減算率は所定単位数の1%です。研修・訓練の未実施そのものは減算の算定要件ではありませんが、運営基準上の義務であるため運営指導での指摘対象になります。

Q2. ヘルパーが1人で訪問中に被災したら、誰が判断するのですか?

結論から言うと、その場の安全確保はヘルパー本人、業務の継続可否は事業所が判断します。「訪問を続けるか中止するか」「次の利用者宅へ向かうか」といった業務判断を現場任せにしないことが大切です。そのためには、ヘルパーから事業所へ状況が届く仕組みが必要になります。報告のタイミング・手段・内容を平時に決めておき、訓練で実際に使ってみてください。連絡が来ないこと自体を異常と判断できる体制にしておくことが重要です。

Q3. 悪天候のときの訪問中止は、どう決めればよいですか?

結論から言うと、警戒レベルなど客観的な指標で決めておきます。「危ないと思ったら中止」といった曖昧な基準では、現場が判断に迷います。介護施設の利用者は避難行動要支援者にあたることが多く、警戒レベル3(高齢者等避難)が発表された段階では利用者側も避難を始める立場です。あわせて、判断する人(管理者・サービス提供責任者)と、中止をヘルパー全員へ伝える手段も決めておきましょう。

8. おわりに:指揮官が現場にいない前提で組む

訪問介護のBCP訓練は、「職員がバラバラの場所にいる」「指揮する人がその場にいない」という前提から出発します。だからこそ、避難誘導の練習よりも、情報をつなぐ訓練——報告のルール、連絡手段、判断の分担——が中心になります。

今回の3つのシナリオは、いずれも15〜30分程度の机上訓練として実施できます。まずは1つ、次の訓練で試してみてください。「連絡先がすぐ出てこなかった」「誰が中止を決めるのか曖昧だった」——そうした気づきが出れば、その訓練は成功です。

「うちの事業所に合ったシナリオを一緒に作りたい」「訪問系の訓練をどう回せばいいか相談したい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「本当に動ける危機管理ノウハウ」で、御社の訓練づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。

主な出典・参考

  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」(研修・訓練の実施に関する記載)
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A」(業務継続計画未策定減算の取扱い)
  • 内閣府「避難情報に関するガイドライン」(警戒レベルと高齢者等避難)
  • 国土交通省「重ねるハザードマップ」(浸水想定区域・土砂災害警戒区域の確認)

※ 回数の数え方や記録の要否は、指定権者(都道府県・市町村)によって運用が異なる場合があります。最新の情報は所管の自治体・公式情報をご確認ください。

気象予報士
×
元自衛官
西 倫弘(にし ともひろ)
気象予報士・元航空自衛官
航空自衛隊で培った危機管理の実務と、気象予報士としての災害リスク分析を掛け合わせ、介護施設のBCP策定支援と体験型防災研修を提供。「書類で終わらせない、本当に動ける防災」を全国の施設へ届けています。

「ヘルパーが1人のとき、どう動く?」を訓練で確かめませんか?

「訪問系のシナリオを一緒に作りたい」「報告ルールを整えたい」——そんな内容で大丈夫です。
元自衛官・気象予報士が無料でご相談に乗ります。鹿児島からオンラインで全国対応。

無料相談を申し込む