気象予報士が教える!介護施設の災害リスクの調べ方|BCP策定に必須のハザードマップ活用術
「2024年にBCP(事業継続計画)が義務化されたけれど、そもそも自施設の災害リスクってどうやって調べればいいの?」「役所でもらった紙のハザードマップは字が小さくて、結局うちの施設が安全なのか危険なのかよく分からない…」
介護施設の施設長・管理者から、BCP策定の第一歩としてこうしたお悩みをよくご相談いただきます。厚生労働省のひな形(テンプレート)を埋めようにも、「自施設の被害想定」が分からなければ何も書くことができません。
この記事では、検索やAIでもよく調べられる「施設の災害リスクの調べ方」の結論を冒頭で明示したうえで、誰でもパソコンやスマホで簡単にできる具体的な確認手順を解説します。気象予報士の視点から、地図を見る際の「見落としがちなポイント」も分かりやすくお伝えします。
1. 【結論】災害リスクは「重ねるハザードマップ」で調べるのが正解
まず結論からお伝えします。介護施設の災害リスク(水害、土砂災害、津波など)を最も簡単かつ正確に調べる方法は、国土交通省がWEB上で無料公開している「重ねるハザードマップ」を使うことです。
紙の地図を探したり、役所の窓口に行ったりする必要はありません。インターネットの検索画面で「重ねるハザードマップ」と検索し、施設の住所を入力するだけで、その場所に「どのような災害の危険が、どの程度あるのか」がピンポイントで色分けされて表示されます。
BCPを作る際は、この画面で確認した「具体的な想定(例:洪水時に〇メートル浸水する等)」を、そのまま計画書に書き写すところからスタートします。
2. なぜ正しいリスク把握が必要?BCP義務化と減算のおさらい
「うちは過去に水害に遭ったことがないから大丈夫」といった感覚的な判断でBCPを作成するのは大変危険です。また、現在の制度下では、BCP未策定の状態は施設運営のペナルティ(減算)に直結します。さらに、ひな形を写しただけで自施設の立地リスクを反映していない“根拠のない”BCPは、運営指導での指摘対象となるほか、内容によっては「計画に従った必要な措置が講じられていない」と判断されるおそれもあります。
2024年4月より、介護施設におけるBCPの策定と運用(研修・訓練の実施)が完全施行となりました。減算(業務継続計画未策定減算)の直接の対象は、BCP(感染症・自然災害)が未策定、または計画に従った必要な措置を講じていない場合です。
| サービス類型 | 減算率 |
|---|---|
| 施設・居住系サービス | 所定単位数の 3% を減算 |
| その他のサービス(訪問系・通所系など) | 所定単位数の 1% を減算 |
なお研修・訓練・定期的な見直しは運営基準上の義務であり、未実施は運営指導での指摘対象となりますが、それ自体は減算の直接の算定要件ではありません(厚生労働省 令和6年度Q&A Vol.1)。行政の運営指導では、「自施設の立地リスクを正しく把握し、それに基づいた計画になっているか」も確認されます。
3. 【実践手順】「重ねるハザードマップ」の使い方
それでは、実際に「重ねるハザードマップ」を使って、自施設の災害リスクを調べる手順を解説します。
▲ 重ねるハザードマップで自施設のリスクを調べる4ステップ
ステップ1:パソコンやスマホで「重ねるハザードマップ」と検索し、サイトを開きます。
ステップ2:画面上部の検索窓に「施設の住所(または施設名)」を入力し、虫眼鏡マークを押します。地図が施設の場所にズームされます。
ステップ3:画面上部にある「洪水」「土砂災害」「津波」などの災害種別を一つずつ順番に選択します。
ステップ4:地図上に色が塗られたら、その色をクリックします。「0.5m〜3.0m未満の浸水想定」といった具体的な被害の目安が表示されます。
これだけで、貴施設が抱える自然災害のリスクを客観的なデータとして把握することができます。
4. ハザードマップを見る時の「落とし穴」とプロの着眼点
調べ方自体は簡単ですが、地図を見る際に多くの人が陥りがちな「落とし穴」があります。専門家の視点から、見落としてはいけないポイントをお伝えします。
気象予報士として防災アドバイスを行う際、必ずお伝えしていることがあります。それは「施設の場所(点)だけでなく、周辺の道路(面)の色も見ること」です。施設自体は色が塗られていなくても、周囲の道路が「0.5m以上の浸水想定」になっていれば、職員は出勤できず、利用者を乗せた送迎車も孤立します。大人の膝上まで水が来ると歩行は困難です。マップを見る時は必ず、周辺の避難ルートや職員の通勤ルートも一緒に確認してください。
5. リスクが分かったら、BCPマニュアルにどう落とし込む?
災害リスクが判明したら、それを厚労省のひな形などのBCPマニュアルに書き込みます。重要なのは、「いつ、誰が、どう判断するか」という「行動の引き金(トリガー)」を決めることです。
「大雨が降ったら避難する」では現場は動けません。介護施設は避難に時間のかかる「要配慮者利用施設」ですから、早めの行動が原則です。「当施設は最大3メートルの浸水想定エリアにあるため、自治体から【警戒レベル3(高齢者等避難)】が発令された時点で、2階への垂直避難を開始する」といったように、数字と警戒レベルを連動させることが必須です。
自衛隊の行動計画でも「最悪の想定」から逆算します。リスクが判明したら、次に考えるべきは「その危険が迫った時、施設長が不在だったらどうするか」です。災害は夜間や休日に起きるかもしれません。BCPマニュアルには必ず「施設長不在時は、その場の最上位者(夜勤リーダーなど)がハザードマップの想定に従って避難の決断を下す」という指揮系統の代行ルールを明記し、全職員に権限を委譲しておくことが、命を守る絶対条件です。
6. 災害リスクの調べ方に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 施設がどの災害の危険エリアにも入っていなかった(色がついていなかった)場合はどうすればいいですか?
結論から言うと、「地震による火災・建物倒壊」や「インフラ停止(停電・断水)」をメインにBCPを作成します。水害や土砂災害のリスクが低いことは素晴らしいことですが、地震の揺れによる停電や通信障害のリスクは日本全国どこにでもあります。自然災害BCPは「停電・断水時にどう介護サービスを継続するか」に焦点を当てて作成してください。
Q2. 市役所が配っている紙のハザードマップと、WEBの「重ねるハザードマップ」はどちらを信じればいいですか?
結論から言うと、基本的には同じ元データですが、凡例(色分けの区分)や掲載範囲が異なる場合があり、最新の情報を得るためにはWEB版を推奨します。紙のマップは数年に一度しか更新されないため、最新の河川改修などが反映されていない場合があります。BCP策定時にはWEBの「重ねるハザードマップ」で最新情報を確認し、自治体独自の細かい指定(避難所の場所など)は市役所のHPや窓口で補完するのがベストな調べ方です。
Q3. 借りているテナント(ビルの中のデイサービス等)でも、建物全体のリスクを調べるべきですか?
結論から言うと、必ず建物全体と周辺地域のリスクを調べる必要があります。自施設がビルの3階にあって水害に直接遭わなくても、1階の電気設備が浸水すれば全館停電になります。ビル管理会社に連絡し、建物全体の防災設備や、浸水時の対応について事前に協議しておくことがBCPの重要な要素となります。
7. おわりに:正しいリスク把握から「命を守れるBCP」を
介護施設のBCP策定は、「書類のひな形を埋める作業」ではありません。自施設が直面するかもしれない「本物の危険」を正しく知り、「利用者と職員の命をどう守るか」を考えるための大切な準備です。ハザードマップを開くことが、その第一歩となります。
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主な出典・参考
- 国土交通省「重ねるハザードマップ(ハザードマップポータルサイト)」(洪水・土砂災害・津波等の想定区域)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」(BCP作成のためのガイドライン・ひな形)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について/同Q&A Vol.1」(業務継続計画未策定減算の要件・単位数・適用時期)/内閣府「避難情報に関するガイドライン」
※ 制度の最新の適用範囲・解釈は改定や自治体運用により変わる場合があります。実務判断の際は所管の指定権者・厚生労働省の最新告示等をあわせてご確認ください。
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