利用者・職員の「安否確認」体制の作り方|連絡網と代替手段

災害発生直後、本部で利用者と職員の安否情報を集約する介護施設の様子。

「大地震が起きた直後、まず何をすればいい?」——答えは安否確認です。ところが「連絡網は作ったが電話がつながらなかったらどうする?」「夜勤中に被災したら、休みの職員へどう連絡する?」と、いざという時の段取りまで詰められている施設は多くありません。

安否確認は、利用者の命を守る初動であると同時に、「今いる人員で何ができるか」という事業継続の判断材料にもなります。この記事では、介護施設の安否確認体制を「連絡網の作り方」と「電話が使えない時の代替手段」の両面から、元自衛官・気象予報士の視点で実務的に解説します。

1. 【結論】安否確認は「多重化」と「発災後のルール化」が要

まず結論からお伝えします。介護施設の安否確認体制で欠かせないのは、次の2点です。

  1. 連絡手段の多重化:電話1本に頼らず、SNS・災害用伝言サービスなど複数のルートを用意する。
  2. 発災後のルール化:「誰が・いつまでに・どの手段で・誰に報告するか」を平時から決めておく。

大規模災害では電話が輻輳(ふくそう=回線の混雑)でつながらなくなります。「電話がつながる前提」の連絡網は、本番でまず機能しません。手段を多重化し、報告のルールを決めておくことが、安否確認を「絵に描いた餅」にしないための出発点です。

2. なぜBCPで安否確認が最優先なのか

災害発生直後の初動は、何よりもまず「人命の確認」から始まります。安否確認には、大きく2つの意味があります。

1つは利用者の安全確認。けがの有無、避難の状況を把握し、救護の優先順位を判断します。もう1つは職員の安否と参集可否の確認です。「誰が、いつ、出勤できるか」が分からなければ、限られた人員でどの業務を継続し、どこに応援を求めるか——という事業継続の判断ができません。

つまり安否確認は、命を守る初動であると同時に、その後のBCP(事業継続)の土台になる情報収集です。だからこそ、最優先で体制を整えておく必要があります。

3. 誰の安否を確認する?(利用者・職員・在宅系)

「安否確認」と一口に言っても、確認すべき対象は複数あります。自施設のサービス形態に合わせて整理しておきましょう。

対象確認する内容
利用者(施設内)フロア・居室ごとに点呼し、けが・避難状況を確認
利用者(通所・訪問系)来所中の利用者に加え、自宅にいる利用者やサービス提供中の利用者の状況
職員本人の安否と、出勤可否・到着の見込み(参集可否)
利用者家族施設側から利用者の安否を家族へ伝える体制

特に通所系・訪問系は、利用者が施設外にいるため注意が必要です。送迎中に被災した場合や、訪問先で職員と利用者が孤立した場合の連絡ルートも、あらかじめ決めておきます。

4. 連絡網の作り方と「電話ツリー」の弱点

多くの施設が使っている「電話ツリー(樹形の連絡網)」——AさんがBさんに、BさんがCさんに…と順に電話する方式には、大きな弱点があります。途中の1人がつながらないと、その先の全員に連絡が届かなくなるのです。

これを避けるには、連絡網を次のように設計し直します。

① 放射状にする:本部(管理者)から複数の職員へ同時に発信し、一本の鎖に依存しない。
② 双方向にする:連絡を「待つ」だけでなく、各職員が自分から本部へ報告する形にする。
③ 情報を一元集約する:報告先を本部に一本化し、「誰の安否が未確認か」が一目で分かる名簿を用意する。

安否確認は連絡手段を多重化する図。本部を中心に、電話・LINE/SNS・災害用伝言ダイヤル171・災害用伝言板web171・一斉配信メール/安否確認システムへ放射状につながる。

▲ 連絡手段を多重化し、本部で一元集約する

専門家コメント|元航空自衛官・危機管理の視点

自衛隊では「報告がないこと」を異常と捉えます。安否確認は“連絡が取れた人を数える”のではなく、“定時までに報告がない人を洗い出す”仕組みにすることが肝心です。全員の安否を本部に一元集約し、氏名を並べた名簿の横に「確認済/未確認」を書き込めるようにしておく。こうすれば、限られた時間の中で「まだ誰の安全が分かっていないか」に集中でき、対応の抜けを防げます。

5. つながらない時の代替手段(171・web171・SNS)

電話がつながらない前提で、次の代替手段を平時から用意し、全職員が使い方を知っている状態にしておきます。

手段特徴
災害用伝言ダイヤル 171音声で伝言を録音・再生。電話番号をキーに家族・職場間で共有できる
災害用伝言板 web171文字で安否を登録・確認。通信が生きていれば電話より届きやすい
LINE・SNSのグループ既読で状況を把握しやすい。音声通話より軽い通信で届きやすい傾向
一斉配信メール/安否確認システム全員へ同時送信。システムなら回答を自動集計でき、集約の手間が減る

ポイントは「音声通話(電話)」と「パケット通信(LINE・web171等)」を必ず併用することです。大規模災害では電話が輻輳しやすい一方、データ通信は比較的つながりやすい傾向があります。ただし停電や基地局の被害では両方使えなくなることもあるため、複数の手段を重ねておくことが安全です。

6. ルール化と、訓練への組み込み方

手段をそろえても、使うルールがなければ現場は動けません。次のように具体化しておきます。

① 報告のルール:「発災後○分以内に、各自が本部(○○)へ、○○(手段)で報告する」と数字で決める。
② 報告テンプレ:「自分の安否/出勤の可否/到着の目安」の3点だけを短く伝える形にする。
③ 訓練で回す:災害用伝言ダイヤル171は、毎月1日・15日のほか、正月三が日、防災週間(8月30日〜9月5日)、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)に体験利用ができます(web171も同じ日程)。防災週間は施設の訓練時期と重なりやすいため、年間訓練計画に組み込み、実際に録音・再生を全員が試しておきましょう。

専門家コメント|気象予報士の視点

台風や大雨は、地震と違って「予測できる災害」です。気象予報士の視点からお伝えしたいのは、この“準備時間”を安否確認にも活かすということ。接近が予想される段階で「今夜、警戒レベルが上がったら○○(手段)で連絡します」と職員へ事前に予告し、連絡手段が本当に動くかを前もって確認しておけます。突発の地震では取れないこの一手を、水害では味方にできます。

安否確認の実施も、研修・訓練の記録として残しておくと運営指導での説明に役立ちます。「いつ・どの手段で・誰が参加し・どんな課題が出たか」を記録簿に残しましょう。詳しくは関連記事「BCP研修の記録様式はどう書く?」もご覧ください。
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7. 安否確認に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 災害時に電話がつながらない場合、どう安否確認すればいいですか?

結論から言うと、音声通話に頼らず複数手段を併用します。大規模災害時は電話が輻輳(回線混雑)でつながりにくくなるため、災害用伝言ダイヤル171・災害用伝言板web171・LINEやSNSのグループ・一斉配信メールなどを重ねて用意してください。手段を多重化しておけば、1つが不通でも別ルートで安否を確認できます。

Q2. 職員の私的な連絡先は、どこまで取得してよいですか?

結論から言うと、利用目的を明示して取得し、必要最小限にとどめます。「災害時の安否確認・参集連絡のため」という利用目的を本人へ明示すること(これは個人情報保護法上の義務です)に加え、同意も得ておくとより安全です。連絡網は個人情報として厳重に管理し、目的外に使わない・退職時に削除する、といった運用を徹底してください。

Q3. 有料の安否確認システムは導入すべきですか?

結論から言うと、規模に応じて判断します。小規模な事業所ならLINEグループと171の併用など無料手段でも十分運用できます。職員数が多い、または多拠点の場合は、一斉送信と自動集計ができるシステムの費用対効果が高くなります。まずは無料手段でルールを固め、規模に応じて導入を検討するのが現実的です。

8. おわりに:初動の一丁目一番地を、訓練で回す

安否確認は、災害対応の「一丁目一番地」です。ここでつまずくと、その後の救護も、事業継続の判断も後手に回ります。逆に言えば、連絡手段を多重化し、報告のルールを決め、訓練で回しておくだけで、初動の質は大きく変わります。

「連絡網を見直したい」「うちの施設に合った安否確認のルールを一緒に作ってほしい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「本当に動ける危機管理ノウハウ」で、御社の初動体制づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。

主な出典・参考

  • 総務省・NTT東日本/西日本「災害用伝言ダイヤル(171)」「災害用伝言板(web171)」(提供条件・体験利用日)
  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」(安否確認・連絡体制に関する記載)
  • 個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン」(従業者の緊急連絡先等の取扱い)

※ 各サービスの提供条件や体験利用日は変更される場合があります。最新の情報は各提供元の公式情報をご確認ください。

気象予報士
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元自衛官
西 倫弘(にし ともひろ)
気象予報士・元航空自衛官
航空自衛隊で培った危機管理の実務と、気象予報士としての災害リスク分析を掛け合わせ、介護施設のBCP策定支援と体験型防災研修を提供。「書類で終わらせない、本当に動ける防災」を全国の施設へ届けています。

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