小規模の介護事業所でもできるBCP研修のやり方|人手不足でも回る「15分・1テーマ・分散型」の進め方

小規模介護事業所の職員4人がテーブルを囲み、タブレットとチェックリストを使って15分のBCPミニ研修をしている様子。

「研修をやりたくても、職員全員が集まる日がない」「講師役をできる人がいない」「準備する時間が取れない」——小規模の介護事業所から、いちばん多く聞く悩みです。

結論から言うと、小規模事業所のBCP研修は「1回で全部やろうとしない」ことで回ります。15分・1テーマ・分散型に切り替えれば、申し送りの延長で実施でき、記録も1枚で済みます。しかも、この省力化は制度が認めている範囲内です。

この記事では、小規模事業所がつまずく3つのハードルと、それを乗り越える3本柱の進め方、制度で認められた省力化の根拠、記録の最小セットを、元自衛官・気象予報士の視点で解説します。

1. 【結論】小規模のBCP研修は「15分・1テーマ・分散型」で回す

まず結論からお伝えします。

  1. 15分:申し送りや会議の延長でできる長さに区切る。90分の研修を年2回より、15分を年8回の方が定着する。
  2. 1テーマ:1回に1つだけ(連絡網/風水害の避難/停電/感染症など)。全部を1回で扱わない。
  3. 分散型:全員が揃う日を待たない。同じテーマを日勤・夜勤に分けて実施し、まとめて1回の研修として記録する。

ここで大事なのは、この方法は「手抜き」ではなく、制度が認めている実施方法の範囲内だということです。訓練は机上を含めて手法を問わず、研修は既存の研修と一体的に実施でき、他の事業者と連携して行うこともできます(第5章で根拠を示します)。

2. おさらい:回数は「規模」ではなく「サービス種別」で決まる

「うちは小さいから年1回でいい」——これは誤解です。BCP研修・訓練の回数は事業所の規模ではなく、サービス種別で決まります。

サービス種別研修訓練
訪問系(訪問介護・訪問看護など)
通所系(通所介護など)
居宅介護支援
年1回以上年1回以上
短期入所(生活介護・療養介護)
多機能系(小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護)
年1回以上年1回以上
居住系(特定施設・地域密着型特定施設・認知症グループホーム)年2回以上
+新規採用時
年2回以上
施設系(特養・地域密着型特養・老健・介護医療院)年2回以上
+新規採用時
年2回以上

つまり、職員10人のグループホームも、職員100人の特養も、求められる回数は同じ「研修年2回以上・訓練年2回以上」です。逆に、泊まりのサービスがある小規模多機能型居宅介護や短期入所は「研修年1回以上・訓練年1回以上」で、グループホームより少ない回数になります。規模でも泊まりの有無でもなく、サービス種別の区分で決まります。小規模だからこそ、少ない人数で決められた回数をこなす工夫が必要になります。

なお解釈通知では、新規採用時の研修は「別に研修を実施することが望ましい」という表現です。感染症対策や身体拘束適正化の研修が「年2回以上及び新規採用時」を明確な義務としているのに比べると一段やわらかい書き方ですが、自治体の集団指導資料では実施を求める扱いが一般的なので、新規採用者が入ったタイミングで15分研修を1回入れておくのが安全です。
減算との関係を正確に:業務継続計画未策定減算(施設・居住系3%、その他1%)の対象は「BCPが未策定」または「計画に従った必要な措置を講じていない」場合です。研修・訓練の未実施そのものは減算の算定要件ではありませんが、運営基準上の義務であり、運営指導で指摘・是正の対象になります。詳しくは「BCP研修・訓練は年何回必要?」「運営指導でBCPはどこを見られる?」で解説しています。

3. 小規模事業所がつまずく3つのハードル

ハードル①:全員が集まる日がない

日勤・夜勤・非常勤が入り混じり、シフトを止めて全員を集めると現場が回りません。「集まれる日を探す」時点で研修が止まります。

ハードル②:講師役がいない

管理者が兼務で手一杯、防災に詳しい職員もいない。「誰が話すのか」で止まります。

ハードル③:準備する時間がない

資料を作る、シナリオを考える、記録様式を整える。この準備が重くて、結局「来月やろう」が続きます。

3つに共通するのは、「研修=全員を集めて、誰かが教える、1時間以上のイベント」という思い込みです。この前提を外すと、3本柱で解決できます。

4. 3本柱の進め方:15分ミニ研修・1枚カード訓練・分散実施

小規模事業所のBCP研修3本柱の図。①15分ミニ研修:申し送りの延長で1回1テーマ、年間テーマ表で回す。②1枚カード訓練:状況を1枚のカードで示し15分の机上訓練、机上手法は制度上OK。③分散・活用:日勤・夜勤に分けて実施、厚労省の研修動画を素材に、既存研修や他事業所との合同実施。下部に、記録は1枚で日時・参加者・テーマ・内容・気づき・次回の6項目という注記。

▲ 3本柱で「集まれない・教えられない・準備できない」を解消する

柱①:15分ミニ研修(ハードル①③に効く)

申し送りの後に15分だけ延長し、1テーマを扱います。講義ではなく「自施設のBCPの該当ページを開いて読み合わせる」だけで十分です。

時期テーマ例やること(15分)
4月連絡網と役割分担連絡網を全員で読み合わせ、変わっている番号を直す
7月風水害の避難判断警戒レベル3(高齢者等避難)で何をするか、自施設の避難先を確認
10月停電・断水止まる機器と代替手段を確認。備蓄の置き場所を実際に見に行く
1月感染症発生時の対応個人防護具(PPE)の置き場所と、発生時の連絡先を確認

年間テーマ表を1枚作っておけば、「今月は何をやるか」を考える時間がゼロになります。テーマ例は「介護施設のBCP研修・訓練は何をする?」に一覧があります。

柱②:1枚カード訓練(ハードル②③に効く)

訓練は、状況を1枚のカードに書いて配るだけで始められます。

  1. カードに状況を1つ書く(例:「17時、大雨警報。管理者は外出中で連絡が取れない。利用者は8名。あなたはどうする?」)
  2. 各自が「自分は何をするか」を2分で書く
  3. 読み上げて、食い違い・分からない点を10分で洗い出す
  4. 洗い出した点を記録の「気づき」欄に書く。それが次回のテーマになる

訓練の実施は、机上を含めて手法を問わないとされています。講師役は不要で、カードを配る人が1人いれば成立します。なお通知は、机上訓練と実地訓練を組み合わせることが適切としています。年間で見たとき、カード訓練だけで完結させず、避難経路を実際に歩く・安否確認を実際に回すといった実地の回を最低1回は組み込んでください。カードの作り方とシナリオ例は「介護BCP訓練はどう進める?そのまま使えるシナリオ3例」、訪問・通所の場面は「訪問介護のBCP訓練」「通所介護のBCP訓練内容」で紹介しています。

柱③:分散実施と既存資源の活用(ハードル①②に効く)

「全員が揃う日」は来ないと割り切ります。

専門家コメント|元航空自衛官・危機管理の視点

少人数の組織で私が大事にしている原則は2つです。ひとつは「全員が揃う日は来ない前提で決める」こと。研修も、災害当日も、いるのは「その日のメンバー」だけです。もうひとつは「一人二役を前提に役割を決める」こと。管理者がいない時に誰が判断するかまで決めていない計画は、小規模事業所では機能しません。15分の訓練でも、「今日いる3人でどう動くか」を繰り返せば、それが本番の動きになります。訓練でできないことは、本番でもできません。

5. 制度が認めている「省力化」の根拠

「15分・1テーマ・分散型」が制度上問題ないことを、根拠とセットで整理します。

やりたい省力化制度上の位置づけ
訓練を机上(カード・読み合わせ)で行う訓練の実施は、机上を含めその実施手法は問わないとされている(ただし通知は「机上及び実地で実施するものを適切に組み合わせながら実施することが適切である」としている)
感染症BCPの研修を感染症予防研修とまとめる感染症の予防及びまん延の防止のための研修と一体的に実施しても差し支えない
災害BCPの訓練を防災訓練とまとめる非常災害対策に係る訓練と一体的に実施しても差し支えない
他の事業所と合同で行う研修・訓練の実施は、他のサービス事業者との連携等により行うことも差し支えない
研修を短時間・複数回に分ける通知に明文の許容規定はないが、運営基準は「定期的な実施と記録」を求めるのみで、1回の長さや一堂に会することは定めていない(禁止されていない)
ただし2点は省力化できません:①研修と訓練は別々に回数を数える(まとめて1回にはならない)。②記録は必ず残す。「やったが記録がない」は、運営指導では「やっていない」と同じ扱いになります。研修と訓練の違いは「BCP研修と訓練は何が違う?」で整理しています。

6. 記録は1枚でよい:最小セット6項目

記録様式を凝る必要はありません。次の6項目が1枚に入っていれば、運営指導で提示できます。

項目書く内容
① 日時分散実施なら複数の日時をすべて書く
② 参加者氏名。欠席者と後日フォローの日付も
③ 区分・テーマ「研修/訓練」のどちらか+「自然災害/感染症」+テーマ名
④ 内容読み合わせたページ、配ったカードの状況、視聴した動画名
⑤ 気づき食い違い・分からなかった点・直す必要があること
⑥ 次回気づきを受けて次回扱うテーマと予定月

⑤と⑥があることで、「記録のための記録」ではなく「BCPを育てる記録」になります。様式のひな形は「BCP研修・訓練の記録様式」で配布しています。

専門家コメント|気象予報士・災害リスク分析の視点

小規模事業所は、災害時に判断する人が1人になりがちです。だからこそ、避難開始のトリガーを「警戒レベル3(高齢者等避難)」に固定し、誰が当番でも同じ判断ができる状態にしておいてください。15分研修の風水害回では、気象庁の警報や市町村の避難情報を「見に行く場所」と「見たら何をするか」を、実際にスマホで開きながら確認するのが効果的です。判断の材料を全員が同じ場所で見られることが、少人数の事業所の強みになります。

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7. よくある質問(FAQ)

Q1. 職員全員が一度に集まれません。研修として成立しますか?

結論から言うと、成立します。運営基準は「定期的に研修を実施し、記録を残す」ことを求めており、全員が同じ日時に一堂に会することまでは求めていません。同じテーマを日勤・夜勤など複数回に分けて実施し、参加者名と日時を記録して1回の研修として整理するのが小規模事業所の現実的な方法です。ただし、欠席者に後日フォローした記録も残しておきましょう。

Q2. 厚労省の動画を職員に視聴させれば、研修になりますか?

結論から言うと、素材として活用するのは有効ですが、「視聴させただけ」では研修の記録として弱くなります。日時・参加者・視聴した内容に加えて、自施設に当てはめた話し合いや理解確認(一言感想や簡単な確認テスト)を残すと、研修として整理しやすくなります。動画視聴を研修として認めるかどうかの細かな判断は指定権者(都道府県・市町村)によって異なる場合があるため、不安があれば所管に確認してください。

Q3. 研修と訓練を同じ日にまとめてやってもいいですか?

結論から言うと、同じ日に実施すること自体は問題ありませんが、研修と訓練は運営基準上それぞれ別に回数が数えられます。「15分の研修で知識を確認し、続けて15分の机上訓練で動きを試す」という形なら、記録は研修と訓練を分けて残してください。1枚の記録に研修欄と訓練欄を設けておくと、運営指導でも説明しやすくなります。

8. おわりに:小さい事業所ほど「全員が動ける」が強みになる

大きな施設では、BCPを知っているのは防災担当だけ、ということが珍しくありません。小規模事業所は、15分の研修を回すだけで全員がBCPを知っている状態を作れます。これは規模の小ささが、そのまま強みになる場面です。

完璧な研修を年2回やろうとして止まるより、15分を毎月続ける方が、利用者と職員を守る力は確実に育ちます。まずは来月の申し送りに、15分だけ足してみてください。

「今の人数と体制でどう進めればいいか」「1枚カードの作り方を一緒に考えてほしい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「少人数でも動ける危機管理ノウハウ」で、小規模事業所でも無理なく回る研修づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。

主な出典・参考

  • 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」等の解釈通知(業務継続計画の策定等:研修・訓練の実施頻度、机上を含めた訓練手法、他のサービス事業者との連携、感染症予防研修・非常災害対策訓練との一体的実施)
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A」(業務継続計画未策定減算の算定要件)
  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」(研修動画)
  • 気象庁「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」

※ 研修・訓練の実施方法や記録の取扱いは指定権者(都道府県・市町村)の運用により異なる場合があります。実務判断の際は所管の指定権者・厚生労働省の最新の通知等をご確認ください。本記事の内容は2026年9月時点の情報です。

気象予報士
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元自衛官
西 倫弘(にし ともひろ)
気象予報士・元航空自衛官
航空自衛隊で培った危機管理の実務と、気象予報士としての災害リスク分析を掛け合わせ、介護施設のBCP策定支援と体験型防災研修を提供。「書類で終わらせない、本当に動ける防災」を全国の施設へ届けています。

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