通所介護(デイサービス)のBCP訓練は何をする?送迎と「帰せない」を織り込む3つのシナリオ

デイサービスの送迎車の前で、職員がタブレットを見ながら空を見上げて天候を確認している様子。背景に通所介護事業所とデイルーム、上部に「送迎中」「提供中」「引き渡し」の3場面を示す円。

「BCPの訓練をやろうと思って調べたら、出てくるのは特養の夜間避難ばかり」——通所介護の管理者から、よくいただくお悩みです。入所施設向けのシナリオは、朝に迎えに行き、夕方に送り届ける通所介護には、そのままでは当てはまりません。

通所介護の特徴は、利用者を「預かって、家に帰す」ことにあります。だからこそ災害時には、入所施設にはない固有の判断が生まれます——送迎車が動けなくなったら。利用者を帰せなくなったら。家族が迎えに来られなかったら。この記事では、通所介護のBCP訓練を「送迎中」「サービス提供中」「引き渡し」の3場面で組み立てる方法を、そのまま使えるシナリオ例とともに、元自衛官・気象予報士の視点で解説します。

1. 【結論】通所系は「3つの場面」で組むと穴が減る

まず結論からお伝えします。通所介護のBCP訓練で欠かせないのは、次の3点です。

  1. 3つの場面で考える:送迎中・サービス提供中・引き渡し。利用者がどこにいるかで、できることが変わる。
  2. 「帰す/帰さない」の判断基準を決める:送迎できるかではなく、送り届けた先が安全かで判断する。
  3. 夜を越す前提で備えを数える:通所の備蓄は「日中の数時間」想定になっていないか。

入所施設の訓練が「避難させる」ことを主題にするのに対し、通所介護の訓練の主題は「帰す・帰さないを決める」ことです。ここが最大の違いになります。

2. なぜ入所施設の訓練をそのまま使えないのか

入所施設(特養・老健など)と通所介護では、災害時の前提条件が大きく異なります。

観点入所施設(特養・老健など)通所介護(デイサービス)
利用者の居場所常に施設内にいる時間帯で変わる(自宅・送迎車・事業所)
災害後のゴール施設で生活を継続する安全に自宅へ帰す/帰せないなら留め置く
家族との関係連絡すればよい引き渡しが必要(来られないことがある)
夜間の体制もともと夜勤があるない(日中のみの想定)
備蓄の想定入所者の生活を数日支える日中の数時間分にとどまりがち
服薬・医療的ケア施設で管理している薬は利用者の自宅にある

特に見落とされやすいのが「夜間の体制がない」という点です。入所施設は災害が夜に起きても夜勤者がいますが、通所介護はそもそも夜に人がいる前提で作られていません。利用者を帰せないまま日が暮れた瞬間、職員体制・備蓄・服薬のすべてが想定外になります。

通所介護のBCP訓練シナリオ3例。①送迎中に被災(発災場所:送迎車/判断する人:運転職員と事業所/道路寸断で利用者を乗せたまま動けない)②サービス提供中に被災(事業所デイルーム/管理者・生活相談員/利用者を帰すか留め置くかの判断)③引き渡せず夜を越す(事業所・夕方以降/管理者/家族が迎えに来られず備蓄と職員体制が不足)。

▲ 発災の場面と判断する人で整理した、通所系の3シナリオ

3. シナリオ①「送迎中に被災」

最初のシナリオは、利用者を乗せた送迎車での移動中に発災する想定です。通所介護でもっとも特徴的で、かつ訓練で扱われにくい場面です。

想定する状況

発災場所送迎車(利用者が複数名乗車中)
判断する人運転職員 + 事業所
起きること道路の寸断・信号停止・渋滞。要介護の利用者を乗せたまま、職員1人で動けなくなる

訓練で確認したいこと

① どこに停めるか:橋の上、アンダーパス、擁壁や崖の下、電柱の脇は避ける。停車場所の判断は一瞬で必要になります。
② 車内の確認:乗車している利用者の人数と状態、けがの有無を確認する。
③ 何を報告するか:「現在地」「乗車している利用者の人数と状態」「車が動かせるか」の3点を短く事業所へ伝える。
④ 次にどう動くか:事業所へ戻るのか、そのまま自宅へ送り届けるのか、近くの避難所へ向かうのか——判断するのは事業所だと全員が理解しているか。

通所介護の送迎中は、訪問介護と違って職員1人に対して利用者が複数という状況になります。全員を車外へ避難させるのは現実的でない場合が多く、「車内に留まる」判断も選択肢に入ります。訓練では「何人までなら誘導できるか」を実際に数えてみてください。

4. シナリオ②「帰すか、留め置くか」

2つ目は、サービス提供中に事業所で発災する想定です。通所介護のBCPで最も重い判断が求められる場面です。

想定する状況

発災場所事業所(デイルーム・入浴中など)
判断する人管理者・生活相談員
起きること利用者を預かった状態で送迎が難しくなる。帰すか、留め置くかを決めなければならない

訓練で確認したいこと

① 施設内の安全確認:利用者と職員のけがの有無、建物・設備の状態を確認する。入浴中だった場合の対応も想定しておく。
② 送迎中止の判断:道路状況・気象情報・警戒レベルのどれで判断するかを決めておく。
③ 帰すか留め置くかの判断:ここが核心です。判断の軸は「送迎できるか」ではなく「送り届けた先が安全か」
④ 家族への連絡:利用者全員分の家族へ、誰がどの手段で一斉に伝えるか。

「帰す」判断が危険になる場合があります。自宅が浸水想定区域や土砂災害警戒区域にあり、日中は家族が不在——という利用者を、災害の直後に1人で自宅へ送り届けることは、安全な選択とは限りません。通所介護は「帰す」ことが前提の事業だからこそ、「帰さない」判断を訓練で一度やっておくことに意味があります。利用者宅の災害リスクは国土交通省「重ねるハザードマップ」で事前に確認できます(→「介護施設の災害リスクの調べ方」)。
専門家コメント|元航空自衛官・危機管理の視点

この判断で必ず決めておいてほしいのが「判断のタイムリミット」です。自衛隊では、状況が不明なときほど「何時までに決めるか」を先に置きます。決められないまま時間が過ぎると、日没という最悪のタイミングで判断させられることになるからです。通所介護なら「15時までに、今日は帰すか留め置くかを決める」と時刻で区切ってください。訓練では、その時刻に本当に決められるかを試します。

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5. シナリオ③「引き渡せず、夜を越す」

3つ目は、利用者を留め置いたまま夜になる想定です。通所介護でもっとも準備が薄く、そして実際に起きている場面です。

想定する状況

発災場所事業所(夕方以降)
判断する人管理者
起きること家族が迎えに来られず、利用者が事業所に残る。夜間の人員も備蓄も想定されていない

訓練で確認したいこと

① 何人分あるか数える:水・食料・毛布・簡易トイレが、利用者と職員の合計で何人分・何食分あるか。実際に数えるところまでが訓練です。
② 服薬をどうするか:通所利用者の薬は自宅にあるのが通常です。持病・服薬情報を事業所側で把握できているか。
③ 誰が残るか:職員自身も帰宅困難になります。誰が残り、誰が帰るかを決められるか。
④ どこへ伝えるか:家族・ケアマネジャー・市町村へ、利用者を留め置いていることをどう伝えるか。

通所介護の備蓄は「日中の数時間」を前提に用意されていることが多く、一晩を越す想定になっていないケースが目立ちます。備蓄の考え方と数え方は「介護施設の防災備蓄チェックリスト」を、停電時に何が止まるかは「停電・断水で介護施設は何が止まる?」をご覧ください。
専門家コメント|気象予報士・災害リスク分析の視点

送迎の中止は、発災後よりも「まだ何も起きていない朝」に判断するほうが難しく、そして重要です。大雨や台風が予想される日は、朝の送迎を出す前に決める必要があります。通所介護の利用者は避難行動要支援者にあたることが多く、警戒レベル3(高齢者等避難)が出た段階では利用者側も避難を始める立場です。「レベル3で送迎中止」のように、数字で基準を決めておいてください。気象情報は前日夕方から翌日の見通しが立ちます。前日のうちに「明日は中止の可能性がある」と家族へ予告できると、当日の混乱が大きく減ります。

【2026年5月29日〜】警報の名前が変わりました。気象業務法・水防法の改正により、警報名の先頭に警戒レベルの番号が付く新しい体系の運用が始まっています(例:レベル3大雨警報、レベル4大雨危険警報)。レベル4に相当する「危険警報」が新設され、従来の洪水注意報・洪水警報といった名称も整理されました。

ただし、気象庁の情報は「判断材料」、市町村が出す避難情報(警戒レベル)が「行動の指示」——この関係は変わりません。送迎中止の基準を決めるときは、どちらを基準にするのかを明確にしておいてください。

6. 訓練の回数と、記録の残し方

通所介護を含む通所・訪問系サービスは、研修・訓練のいずれも年1回以上が目安です。研修と訓練はそれぞれ別に数えるため、「研修を年1回」と「訓練を年1回」の両方を実施する必要があります。

サービス形態研修訓練
入所系・施設系各年2回以上各年2回以上
通所系・訪問系各年1回以上各年1回以上

記録には、種別を「訓練(通所系シナリオ)」と明記し、どの場面で実施したか(送迎中/提供中/引き渡し)も残しておくと、翌年に別の想定へ切り替えやすくなります。

なお、業務継続計画未策定減算の対象は、BCPが未策定、または計画に従った必要な措置を講じていない場合です(通所系サービスの減算率は所定単位数の1%)。研修・訓練の未実施そのものは減算の算定要件ではありませんが、運営基準上の義務であるため運営指導での指摘対象となります。記録様式の作り方は「BCP研修・訓練の「記録様式」はどう書く?」をご覧ください。

7. 通所介護のBCP訓練に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 通所介護のBCP訓練は年に何回必要ですか?

結論から言うと、通所介護などの通所系サービスは、研修・訓練のいずれも年1回以上が目安です。研修と訓練は別々に数えるため、「研修を年1回」と「訓練を年1回」の両方が必要になります。なお、業務継続計画未策定減算の対象は、BCPが未策定または計画に従った必要な措置を講じていない場合で、通所系サービスの減算率は所定単位数の1%です。研修・訓練の未実施そのものは減算の算定要件ではありませんが、運営基準上の義務であるため運営指導での指摘対象になります。

Q2. 利用者を自宅へ帰すか、事業所に留め置くか、どう判断すればよいですか?

結論から言うと、「送迎できるか」ではなく「送り届けた先が安全か」で判断します。自宅が浸水想定区域や土砂災害警戒区域にあり、日中は家族が不在という利用者を災害直後に1人で帰すことは、安全な選択とは限りません。判断する人(管理者・生活相談員)と、判断のタイムリミット(何時までに決めるか)を平時に決めておき、訓練で実際に判断してみてください。

Q3. 送迎の中止は、どう決めればよいですか?

結論から言うと、警戒レベルなど客観的な指標で決めておきます。「危なそうなら中止」という曖昧な基準では、朝の忙しい時間帯に判断が揺れます。通所介護の利用者は避難行動要支援者にあたることが多く、警戒レベル3(高齢者等避難)が発表された段階では利用者側も避難を始める立場です。出発前の送迎と帰りの送迎それぞれに判断ポイントを設け、判断する人と、中止を家族へ伝える手段まで決めておきましょう。

8. おわりに:「帰す」前提が崩れたときを試す

通所介護のBCP訓練は、「利用者を預かっている」「いずれ帰す」という前提から出発します。だからこそ訓練の主題は、避難誘導そのものよりも「帰す・帰さないを、誰が、いつまでに決めるか」になります。

今回の3つのシナリオは、いずれも15〜30分程度の机上訓練として実施できます。まずは1つ、次の訓練で試してみてください。「備蓄が何人分あるか誰も知らなかった」「利用者の薬のことまで考えていなかった」——そうした気づきが出れば、その訓練は成功です。

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主な出典・参考

  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」(研修・訓練の実施に関する記載)
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A」(業務継続計画未策定減算の取扱い)
  • 内閣府「避難情報に関するガイドライン」(警戒レベルと高齢者等避難)
  • 気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年〜)」(2026年5月29日運用開始・警報名へのレベル番号付与、危険警報の新設)
  • 国土交通省「重ねるハザードマップ」(浸水想定区域・土砂災害警戒区域の確認)

※ 回数の数え方や記録の要否は、指定権者(都道府県・市町村)によって運用が異なる場合があります。最新の情報は所管の自治体・公式情報をご確認ください。

気象予報士
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元自衛官
西 倫弘(にし ともひろ)
気象予報士・元航空自衛官
航空自衛隊で培った危機管理の実務と、気象予報士としての災害リスク分析を掛け合わせ、介護施設のBCP策定支援と体験型防災研修を提供。「書類で終わらせない、本当に動ける防災」を全国の施設へ届けています。

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