停電・断水で介護施設は何が止まる?非常用電源と断水対策

停電した介護施設の廊下で、非常用発電機を操作する男性職員。奥には吸引器と電動ベッド、足元にはランタンの灯り。窓の外は雨の夜。

BCPというと「避難」を思い浮かべる方が多いのですが、介護施設にとって本当に苦しいのは、避難したあと、あるいは避難せずに施設に留まったあとの「事業継続」です。停電で吸引器が止まる。断水でトイレが流せない。エレベーターが使えず、上階の利用者を運べない——。

災害そのものより、その後に続くライフラインの途絶が、利用者の命と職員の消耗を直撃します。この記事では、停電・断水で介護施設の何が止まるのかを具体的に洗い出し、「命に直結する機器から順に守る」という考え方で、非常用電源の選び方と断水対策を、元自衛官・気象予報士の視点から解説します。

1. 【結論】BCPの本命は「避難のあと」

まず結論からお伝えします。停電・断水への備えで欠かせないのは、次の3点です。

  1. 止まるものを具体的に洗い出す:「電気が止まる」ではなく「吸引器が使えなくなる」まで具体化する。
  2. 命に直結する機器から順に守る:限られた電源を全機器に配れない前提で、優先順位を紙に落とす。
  3. 訓練で一度やってみる:ブレーカーを落として、実際に手順が回るか検証する。

BCP(事業継続計画)は、避難計画とは違い「サービスを止めない・命をつなぐ」ための計画です。避難確保計画が「逃げる」ための計画だとすれば、BCPは「逃げた後、あるいは留まった後をどう生き延びるか」を扱います。停電・断水こそ、その真価が問われる場面です。

2. 停電で止まるもの・断水で困ること

「停電したら困る」と漠然と考えるのではなく、自施設で具体的に何が止まるかをリスト化することが第一歩です。

停電で止まるもの(電動ベッド・吸引器・在宅酸素・エレベーター・エアコン・ナースコール・Wi-Fiルーター)と、断水で困ること(飲料水の蛇口・トイレ・入浴・手洗い・洗濯・調理)を2列で並べ、最優先で守るべきものとして命に直結する医療機器・飲料水・トイレの3つを下段に示した図。

▲ 停電で止まるもの/断水で困ること。最優先は「命に直結する機器・飲料水・トイレ」

停電で止まるもの

設備・機器止まると何が起きるか
電動ベッド体位変換・起き上がり介助ができず、職員の負担が急増。褥瘡リスクも高まる
吸引器痰の吸引ができず、窒息の危険。命に直結
在宅酸素・酸素濃縮器酸素供給が途絶える。命に直結(酸素ボンベへの切り替えが必要)
エレベーター上階の利用者を降ろせない。搬送は階段のみとなり、人手と時間を大量に消費
空調(エアコン)夏は熱中症、冬は低体温症のリスク。高齢者は体温調節が難しく致命的になり得る
ナースコール利用者からの呼び出しが届かない。巡回頻度を上げる必要があり人手を圧迫
通信機器(Wi-Fi・固定電話)家族連絡・記録システム・安否確認の手段が失われる

断水で困ること

用途困ること
飲料水水分補給ができない。高齢者は脱水症状が急速に進行する
トイレ水洗できない。排泄介助の回数が多い介護施設では衛生環境が急速に悪化
入浴清潔保持ができず、皮膚トラブル・感染リスクが上昇
手洗い職員の手指衛生が保てず、感染症の拡大リスクが高まる
洗濯汚染されたリネン・衣類を洗えず、衛生管理が破綻していく
調理食事の準備・食器洗浄ができない。備蓄食への切り替えが必要
専門家コメント|気象予報士・災害リスク分析の視点

台風や大雪は、地震と違って停電のリスクを事前に予測できます。接近が予想される段階で燃料の追加補給・スマホの充電・飲料水の確保を前もって済ませておく——この“準備時間”を使えることが、水害・気象災害への備えの大きな強みです。「予測できる災害には、予測に応じた準備動作を」を合言葉に、台風接近時のチェックリストを作っておくことをおすすめします。

3. 非常用電源の選び方(容量の考え方)

非常用電源は「大きければいい」というものではありません。守りたい機器を決めてから、必要な容量を逆算するのが正しい順番です。

容量の概算方法

基本の計算式はシンプルです。

必要容量(Wh)= 守りたい機器の消費電力(W)× 稼働させたい時間(h)

たとえば「消費電力100Wの吸引器を、1日あたり合計3時間、3日間動かしたい」なら、100W × 3h × 3日 = 900Wh が目安になります。ここに在宅酸素や照明を加えて合計していけば、自施設に必要な容量が見えてきます。

まずやるべきは、自施設の機器の消費電力を確認すること。機器の背面や取扱説明書に記載があります。この数字を持たずに発電機を選ぶと、「買ったけれど足りない」「大きすぎて燃料が続かない」というミスマッチが起こります。

電源手段の選択肢

手段特徴
ポータブル電源静音・屋内で使える・扱いが簡単。容量は限られるが、命に直結する機器に絞れば十分実用的。複数台を分散配置しやすい
可搬型発電機(ガソリン・カセットガス)大きな出力が得られる。ただし排気ガスのため屋外設置が必須。燃料の保管量には法令上の制約がある
常設型非常用発電機施設全体を賄えるが、導入コストが高い。定期的な試運転・整備が必要
電気自動車・ハイブリッド車からの給電送迎車を電源として活用できる。給電機能の有無を事前に確認しておく
燃料の備蓄には消防法などの制約があります。「発電機はあるが燃料が半日分しかない」という状態にならないよう、保管可能な量と、それで何時間動くかを必ず計算しておいてください。カセットガス式は保管のハードルが低く、小規模施設では現実的な選択肢になります。

4. 断水対策(飲料水・生活用水・トイレ)

断水対策は「飲む水」と「使う水」を分けて考えると整理しやすくなります。

飲料水

1人1日3L(飲用+調理)が目安です。利用者+職員の全員分を、最低3日分・可能なら1週間分。備蓄の考え方は姉妹記事「介護施設の防災備蓄リスト」で詳しく解説しています。

生活用水

トイレ・清拭・手洗いなどに使う水は、飲料水とは別に確保します。

トイレ

介護施設で最も切実なのがトイレです。排泄介助の回数が多く、一般家庭とは必要数の桁が違います。

携帯トイレ・簡易トイレ便器にかぶせて使う袋タイプ。利用者・職員の人数×回数×日数で必要数を算出
凝固剤汚物を固めて臭いと漏れを抑える。携帯トイレとセットで備蓄
密閉袋・保管場所汚物の一時保管場所を平時に決めておく(衛生管理・臭気対策)
手指消毒手洗いができない前提で、アルコール消毒液を多めに確保

5. 電源トリアージ:誰が何を優先するか

限られた電源で全ての機器を動かすことはできません。あらかじめ優先順位を決めておくことが、混乱を防ぐ唯一の方法です。

優先度対象理由
最優先吸引器・在宅酸素・人工呼吸器など停止が直ちに命に関わる医療機器
照明(最低限)・通信手段・冷暖房(酷暑・厳寒時)安全確保と、体温調節が困難な利用者の保護
電動ベッド・ナースコール介助の効率と安全に影響するが、人手で代替可能
記録システム・事務機器・テレビ等災害直後は紙運用で代替できる
専門家コメント|元航空自衛官・危機管理の視点

電源が限られた状況で全ての機器を動かすことはできません。自衛隊で言う「重要業務トリアージ」——命に直結する機器から順に電源を配分する、という発想が要ります。平時から「まず何に電気を回すか」の優先順位を紙に落とし、非常用電源のコンセントに札を付けておくと、停電時に迷わず動けます。暗闇の中で「これはどの機器用だったか」と考える時間が、そのまま利用者のリスクになります。

停電・断水を想定した訓練の記録も、「いつ・どの想定で・誰が参加し・何が課題だったか」を残しておくと運営指導での説明に役立ちます。記録様式の作り方は関連記事「BCP研修・訓練の記録様式はどう書く?」をご覧ください。
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6. 停電・断水に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 介護施設に非常用発電機は必要ですか?どのくらいの容量が目安ですか?

結論から言うと、吸引器・在宅酸素・電動ベッドなど電気が止まると命に関わる機器を使用している施設では、何らかの非常用電源の確保が不可欠です。容量は「守りたい機器の消費電力(W)×稼働させたい時間(h)」で概算します。まず自施設の機器の消費電力を確認し、最低限守るべき機器だけを合計してみてください。全館を賄う大型発電機でなくても、ポータブル電源を複数台そろえて命に直結する機器に割り当てる方法もあります。

Q2. 停電はどのくらいの期間を想定して備えればよいですか?

結論から言うと、まず3日間を自力で乗り切れる状態を目標にしてください。過去の大規模災害では、停電の復旧に数日から1週間以上を要した例があります。可能であれば1週間を視野に入れましょう。特に燃料は保管量に法令上の制約があるため、「発電機はあるが燃料が半日分しかない」という状態にならないよう、稼働可能時間を実際に計算しておくことが重要です。

Q3. 断水時、トイレはどうすればよいですか?

結論から言うと、携帯トイレ・簡易トイレと凝固剤、汚物を保管する密閉袋をあらかじめ備蓄しておきます。介護施設では排泄介助の回数が多く、一般家庭より必要数がはるかに多くなる点に注意してください。おむつ利用者が多い施設でも、職員用と自立利用者用の備えは別途必要です。あわせて、汚物の一時保管場所と衛生管理の手順も平時に決めておきましょう。

7. おわりに:訓練で「暗闇の一晩」を体験しておく

停電・断水への備えは、機材をそろえただけでは完成しません。実際にブレーカーを落として、手順が回るかどうかを確かめる——この一手間が、計画と現実の距離を埋めます。

「懐中電灯がどこにあるか分からなかった」「発電機の始動方法を知っているのが1人だけだった」「ポータブル電源の充電が切れていた」——訓練で見つかるこうした課題は、本番前に見つかった収穫です。夜間想定で15分だけでも実施してみると、驚くほど多くの気づきが得られます。

「非常用電源をどう選べばいいか分からない」「停電想定の訓練を一緒に設計してほしい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「本当に動ける危機管理ノウハウ」で、御社の事業継続体制づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。

主な出典・参考

  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」(ライフライン停止時の対応に関する記載)
  • 内閣府「防災情報のページ」(停電・断水時の備えの考え方)
  • 消防法および関係法令(危険物・指定可燃物の貯蔵・取扱いに関する制限)

※ 燃料の保管可能量や設置基準は、施設の構造・規模・自治体の条例により異なります。導入前に所管の消防署へご確認ください。

気象予報士
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元自衛官
西 倫弘(にし ともひろ)
気象予報士・元航空自衛官
航空自衛隊で培った危機管理の実務と、気象予報士としての災害リスク分析を掛け合わせ、介護施設のBCP策定支援と体験型防災研修を提供。「書類で終わらせない、本当に動ける防災」を全国の施設へ届けています。

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