介護BCPの研修・訓練、年度後半からでも間に合う?10月〜3月で年2回を終わらせる計画表
「気づけば10月。今年度のBCP研修も訓練も、まだ1回もできていない」——上半期は新人の受け入れ、出水期の対応、行事の準備で手一杯になり、BCPの研修・訓練が後ろにずれ込むのは、多くの施設で起きていることです。
結論から言うと、10月からでも十分に間に合います。必要なのは、残り6か月に「月1コマ」ずつ研修と訓練を配置し、2月を予備月として空けておくことです。逆に「年明けから考えよう」と後回しにすると、3月に研修も訓練も詰め込むことになり、職員の負担が一気に増えるうえ、中身も形だけになりがちです。
この記事では、今年度の実施状況を数える棚卸しの方法、年2回型・年1回型それぞれの10月〜3月の配置例、間に合わせるための工夫、そして回数と減算の関係という制度の根拠までを、元自衛官・気象予報士の視点で整理します。
1. 【結論】10月から間に合う。月1コマ+2月は予備月
まず結論をまとめます。
- 10月時点で研修・訓練が0回でも、残り6か月で年2回ずつ実施できる。月1コマずつ置けば足りる。
- 研修と訓練は別々に数える。「研修2回・訓練2回」のように、種別ごとに残り回数を出す。
- 2月は予備月として空けておく。体調不良や感染症の流行で延期になっても、3月末までに取り戻せる。
- 3月は新しい研修・訓練を入れず、BCPの見直しと記録の整理、次年度計画に使う。
ポイントは「3月を締め切りにしない」ことです。実質の締め切りは1月、2月は保険と考えて逆算すると、無理のない計画になります。
▲ 実質の締め切りは1月。2月を予備月、3月を見直しに充てる配置例
2. なぜ研修・訓練は年度後半に残りやすいのか
研修・訓練が後ろにずれ込むのには、はっきりした理由があります。
① 上半期は予定が詰まっている:4月は新人の受け入れと各種の法定研修、6〜7月は出水期と暑さへの対応、夏は行事や職員の休暇が重なります。BCPの研修・訓練は「急ぎではない」と判断され、後回しにされやすい枠です。
② 担当者が1人で抱えている:計画から資料づくり、日程調整、記録までを1人の担当者が兼務していると、日常業務に押されて着手できません。
③ 「年度内なら大丈夫」という思い込み:回数の基準は年単位なので、つい「まだ半年ある」と考えがちです。しかし冬は感染症の流行期で、職員の欠勤や面会制限が重なると、予定していた訓練が延期になることは珍しくありません。
だからこそ、10月の時点で残りの計画を決め切ることに意味があります。
3. まず棚卸し:今年度の実施済みを「種別」で数える
計画を立てる前に、今年度(4月以降)に実施したものを数えます。なお「年1回以上」「年2回以上」の年の区切り方(4月始まりの年度か、前回実施日からの1年かなど)は基準上明記されていないため、運用は所管の指定権者の資料で確認してください。このとき「防災研修をやった」という大まかな数え方では足りません。次の表のように、研修と訓練、自然災害と感染症を分けて数えてください。
| 種別 | 今年度の実施回数 | 残りの必要回数 |
|---|---|---|
| BCP研修(自然災害) | 記録を見て数える | 研修の合計が基準回数に届くまで |
| BCP研修(感染症) | 記録を見て数える | |
| BCP訓練(自然災害) | 記録を見て数える | 訓練の合計が基準回数に届くまで |
| BCP訓練(感染症) | 記録を見て数える |
棚卸しでよく見つかるのが、「避難訓練はやったが、BCPの訓練として記録されていない」ケースです。消防計画に基づく避難訓練の記録しかなく、BCPのどの手順を確かめたのかが書かれていないと、BCPの訓練として説明しにくくなります。すでに実施した訓練でも、記録にBCPとの関係(どの手順を確認したか)を書き足せるなら、この機会に整えておきましょう。
介護のBCPは、感染症と自然災害の両方について策定が求められています。研修・訓練も、年間を通じて両方のテーマを扱うように配置してください。1回の中に両方の想定を入れるか、テーマごとに分けるかの数え方は自治体によって扱いが異なる場合があるので、所管の指定権者の資料で確認するのが確実です。
4. 10月〜3月の配置例(年2回型・年1回型)
年2回型(施設系・居住系):今年度まだ0回の場合
特養・老健・介護医療院などの施設系と、特定施設・認知症グループホームなどの居住系は、研修・訓練ともに年2回以上が基準です。今年度まだ実施していない場合の配置例がこちらです。
| 月 | 実施すること | 内容の例 |
|---|---|---|
| 10月 | 研修①(自然災害) | 自然災害BCPの読み合わせ。冬の大雪・停電で何が止まるかを確認 |
| 11月 | 訓練①(自然災害・机上) | 夜勤帯に地震や停電が起きた想定で、最初の30分の動きを机上で確認 |
| 12月 | 研修②(感染症) | 感染症BCPの読み合わせ。職員が大量に欠勤したときの優先業務を確認 |
| 1月 | 訓練②(感染症・机上+実地) | 陽性者が出た想定で、連絡の流れを机上で確認し、個人防護具(PPE)の着脱を実地で確認 |
| 2月 | 予備月(欠席者フォロー) | 延期分の実施、欠席した職員への個別フォロー |
| 3月 | 見直しと記録整理 | 研修・訓練で出た課題をBCPに反映し、記録を種別ごとに整理。次年度計画を作る |
すでに上半期に1回ずつ実施している場合は、この表から研修1回・訓練1回を選べば足ります。季節に合わせるなら、自然災害は秋から初冬、感染症は流行期に入る12月〜1月に置くのが自然です。ただし、感染症と自然災害をそれぞれ年2回ずつ求める自治体もあるため、テーマの割り振り(1回ずつでよいか、それぞれ2回か)は、所管の指定権者に確認してください。
また、施設系・居住系では新規採用時にも別に研修を実施することとされています(訪問系・通所系など年1回以上のサービスでは「実施することが望ましい」)。年度途中に採用した職員がいる場合は、年間の回数とは別に、採用のたびに実施して記録を残してください。
年1回型(訪問系・通所系・居宅介護支援・短期入所・多機能系)
訪問介護・通所介護・居宅介護支援、短期入所、小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護などは、研修・訓練ともに年1回以上が基準です。
| 月 | 実施すること | 内容の例 |
|---|---|---|
| 11月 | 研修(自然災害+感染症) | 2つのBCPの要点を読み合わせ、自分の役割を確認 |
| 1月 | 訓練(机上) | 訪問中・送迎中に被災した想定で、安否確認と利用者への連絡を机上で確認 |
| 2月 | 予備月(欠席者フォロー) | 延期分の実施、欠席者への個別フォロー |
| 3月 | 見直しと記録整理 | 課題をBCPに反映し、次年度計画を作る |
回数が少ない分、1回の中身を濃くできます。訪問系の訓練シナリオは「訪問介護のBCP訓練はどう作る?」、通所系は「通所介護(デイサービス)のBCP訓練内容」が参考になります。
年度後半は「災害が少ない時期」ではありません。10月はまだ台風が接近することがあり、12月以降は地域によって大雪と、それに伴う停電・交通の途絶が起こります。秋の自然災害の訓練は、冬に起こりうる災害を題材にすると、訓練がそのまま今シーズンの備えになります。
もう一つ、秋の訓練でも避難を始める基準は変わりません。介護施設は要配慮者利用施設として、警戒レベル3(高齢者等避難)の段階で避難を始める立場です。訓練の状況付与でも、この基準で判断を始める流れにしておいてください。
5. 間に合わせるための4つの工夫
① 研修と訓練を同じ日に続けて行う
たとえば「前半20分で自然災害BCPの読み合わせ(研修)、後半30分で夜間地震の机上訓練(訓練)」のように続けると、職員が集まる回数を減らせます。ただし記録は研修と訓練の2件に分けて残してください。研修と訓練の違いと数え方は「介護BCPの「研修」と「訓練」は何が違う?」で解説しています。
② 全員が一度に集まる前提をやめる
夜勤があるとシフト上、全員が一度にそろう日はまずありません。同じ内容を15分ずつ2〜3回に分けて実施し、参加者名簿をまとめて1回分の記録にする方法があります。小さな事業所でも回せるやり方は「小規模の介護事業所でもできるBCP研修のやり方」にまとめています。
③ 訓練の「型」を借りる
シナリオを一から作ろうとすると、それだけで1か月が過ぎます。最初の1回は既存のシナリオを借りて実施し、2回目で自施設向けに状況付与を変える、という順番で十分です。そのまま使えるシナリオは「介護BCP訓練はどう進める?そのまま使えるシナリオ3例」で紹介しています。
④ 日程は「10月中に」全部決める
残りの研修・訓練の日付と担当者を、10月のうちに全部決めてシフト表に書き込みます。「月のどこかでやる」では、日常業務に押されて翌月にずれます。日付が決まっていれば、欠席者の把握も予備月の使い方も具体的になります。
計画は締め切りから逆算し、予備を最初から組み込んでおくのが原則です。予定どおりに進まないことは、計画の段階で織り込んでおくべき前提だからです。2月を空けておくのは手抜きではなく、計画を確実に完了させるための備えです。
もう一つ、回数を満たすことを目的にしないでください。訓練でできないことは、本番でもできません。1回目の訓練で「ここで止まった」という場面が見つかれば、それは失敗ではなく成果です。2回目までにその部分を直し、もう一度確かめる。この流れを年度内に一巡させることが、年2回の意味だと考えています。
6. 制度の根拠:回数区分と減算の関係
研修・訓練の回数はサービスの種類で決まる
運営基準では、業務継続計画について職員に周知し、必要な研修と訓練を定期的に実施することが求められています。回数はサービスの種類で決まり、研修と訓練はそれぞれ別に数えます。
| サービスの種類 | 研修 | 訓練 |
|---|---|---|
| 居住系(特定施設・地域密着型特定施設・認知症グループホーム) 施設系(特養・地域密着型特養・老健・介護医療院) | 年2回以上 | 年2回以上 |
| 訪問系・通所系・居宅介護支援・短期入所(生活/療養)・多機能系(小規模多機能・看護小規模多機能) | 年1回以上 | 年1回以上 |
※ 研修は、新規採用時にも別に実施します。施設系・居住系(年2回以上のサービス)では「新規採用時には別に研修を実施すること」、訪問系・通所系など年1回以上のサービスでは「実施することが望ましい」とされています(解釈通知)。
短期入所や小規模多機能型居宅介護には「泊まり」がありますが、回数の区分は年1回以上の側です。泊まりがあるからといって年2回の側に入るわけではないので注意してください。サービス別の詳しい早見表は「BCP研修は年何回?」で確認できます。
訓練の方法について、国の通知は「机上を含めその実施手法は問わないものの、机上及び実地で実施するものを適切に組み合わせながら実施することが適切」としています。机上訓練も訓練の方法として認められていますが、年間を通じて机上と実地を組み合わせることが適切とされています。配置例の1月に実地(PPEの着脱)を入れているのはこのためです。
研修・訓練の未実施は、減算の算定要件ではない
ここは誤解されやすいところです。業務継続計画未策定減算の対象になるのは、感染症・自然災害のBCPが未策定の場合、または計画に従い必要な措置を講じていない場合です。研修・訓練の未実施は減算の算定要件ではありません(厚生労働省 令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1))。ただし研修・訓練の実施は運営基準上の義務であり、未実施は運営指導で指摘される対象になります。
| サービス類型 | 減算率 |
|---|---|
| 施設系・居住系サービス | 所定単位数の 3% を減算 |
| その他のサービス(訪問系・通所系など) | 所定単位数の 1% を減算 |
運営指導では、計画があるかどうかに加えて、研修・訓練を実施した記録と、その結果を計画の見直しに反映したかが確認されます。見られやすいポイントは「介護施設の運営指導でBCPはどこを見られる?」にまとめています。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. 年度内に研修・訓練が規定回数に届かなかったら、すぐ減算になりますか?
結論から言うと、研修・訓練が回数に届かなかったこと自体は、業務継続計画未策定減算の算定要件ではありません。減算の対象は、感染症・自然災害のBCPが未策定の場合、または計画に従い必要な措置を講じていない場合です。ただし研修・訓練の実施は運営基準上の義務なので、未実施は運営指導で指摘される対象になります。「減算にならないから後回しでよい」ではなく、残りの月で確実に実施し、記録を残してください。
Q2. 研修と訓練を同じ日にまとめて実施してもよいですか?
結論から言うと、同じ日に続けて実施すること自体は、職員の負担を減らす有効な方法です。ただし研修と訓練は別々に数えるので、記録も「研修」と「訓練」の2件に分けて残してください。1枚の記録に「BCP研修・訓練」とまとめて書くと、運営指導で何を何回実施したのか説明できなくなります。
Q3. 3月に2回分をまとめて実施しても、回数を満たしたことになりますか?
結論から言うと、運営基準は「年2回以上」「年1回以上」という回数を定めているもので、実施する月まで細かく決めているわけではありません。ただし、同じ月に詰め込むと、1回目で見つかった課題を直す時間がなく、2回目が同じ内容の繰り返しになりがちです。回数の数え方や確認のされ方は所管の指定権者に確認したうえで、できるだけ月をずらして配置し、2月を予備月として空けておくのが確実です。
8. おわりに:3月に慌てないために、今月1コマ目を決める
年度後半からの巻き返しで大切なのは、立派な年間計画を作ることではなく、今月の1コマ目の日付を決めることです。1回目が動けば、そこで見つかった課題が2回目のテーマになり、計画は自然に続いていきます。
棚卸しで残り回数を数え、10月のうちに日付と担当者を決め、2月を予備月として空けておく。この3つだけで、3月に研修と訓練を詰め込む事態は避けられます。そして3月は、1年分の気づきをBCPに反映し、来年度は4月から計画どおりに回せる状態をつくる月にしてください。
「残りの回数をどう配置すればいいか一緒に考えてほしい」「訓練のシナリオを自施設向けに作りたい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「本当に動ける危機管理ノウハウ」で、御施設の研修・訓練計画づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。
主な出典・参考
- 厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準について」ほか各サービスの解釈通知(業務継続計画の策定等:研修・訓練の回数、机上と実地の組み合わせ)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」(業務継続計画未策定減算の算定要件)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」資料、「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」
- 社会保障審議会介護給付費分科会 第239回 資料1(業務継続計画未策定減算の対象サービス)
- 内閣府「避難情報に関するガイドライン」(警戒レベル3 高齢者等避難)
※ 研修・訓練の回数の数え方や記録の確認方法は、指定権者(都道府県・市町村)によって運用が異なる場合があります。本記事の内容は2026年10月時点の情報です。
残りの研修・訓練、どこに何を置くか一緒に決めませんか?
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