避難確保計画とBCPは何が違う?根拠法・対象・義務の比較

介護施設の事務室で、避難確保計画とBCPの2冊のファイルを前に考える管理者。壁には施設の位置を示したハザードマップが貼られている。

「BCPは作りました。避難確保計画も出しました。……この2つ、何が違うんでしょう?」——浸水想定区域や土砂災害警戒区域にある施設の管理者から、よくいただく質問です。

どちらも災害に備える計画で、内容も一部重なります。しかし根拠となる法律が別で、目的も対象も提出先も違う、まったく別の制度です。そして重要なのは、片方があっても、もう片方は免除されないという点。この記事では両者の違いを整理し、現場が混乱しないように1枚にまとめるコツまで、元自衛官・気象予報士の視点で解説します。

1. 【結論】別の制度。両方が必要

まず結論からお伝えします。押さえるべきは次の3点です。

  1. 根拠法が違う:避難確保計画は水防法・土砂災害防止法、BCPは介護保険の運営基準。
  2. 目的が違う:避難確保計画は「避難させる」、BCPは「避難+事業継続」。
  3. 片方では代わりにならない:区域内の施設は、両方の対応が必要になる。

よくある誤解が「BCPに避難のことを書いたから、避難確保計画は不要」というもの。制度の枠組みそのものが別なので、この理屈は通りません。逆に「避難確保計画を市町村に出したからBCPは大丈夫」も同じく成り立ちません。根拠法も所管も別なので、片方の履行がもう片方の義務を消すことはないからです。

2. 避難確保計画とは(水防法・土砂災害防止法)

避難確保計画は、水防法および土砂災害防止法に基づく制度です。2017年(平成29年)の法改正で、対象となる施設に作成が義務付けられました。

なお、この制度の対象は介護施設に限りません。社会福祉施設・医療施設・学校など、要配慮者が利用する施設全般が対象です(介護施設はこのうち社会福祉施設に該当します)。本記事では介護施設の場合を中心に解説します。

根拠法水防法・土砂災害防止法
目的災害時に利用者を安全に避難させること
対象施設浸水想定区域・土砂災害警戒区域などに立地し、市町村の地域防災計画にその名称が定められた要配慮者利用施設
(社会福祉施設・医療施設・学校などを含む。介護施設はこのうち社会福祉施設に該当)
義務の内容①計画の作成 ②市町村長への報告 ③避難訓練の実施 ④訓練結果の市町村長への報告
提出先市町村(防災担当部署)
未対応の場合市町村長からの指示・公表の対象(水防法・土砂災害防止法に基づく)

ここでのポイントは「立地で決まる」ことです。区域外の施設には、この義務はかかりません。

2021年(令和3年)の法改正で、避難訓練の結果を市町村長へ報告することが義務化されました。あわせて、市町村長が施設管理者へ助言・勧告を行える仕組みも設けられています。「計画を出して終わり」ではなくなっている点に注意してください。

3. BCPとは(介護保険の運営基準)

一方のBCP(業務継続計画)は、介護保険の運営基準に基づく制度です。2024年4月から全介護事業所で完全義務化されました。

根拠介護保険法に基づく運営基準(省令)
目的避難に加え、サービスを止めない・早期に再開すること
対象事業所すべての介護事業所(立地を問わない)
義務の内容①計画の策定(感染症・自然災害の両方) ②研修 ③訓練 ④定期的な見直し
未対応の場合業務継続計画未策定減算(施設・居住系は所定単位数の3%、その他のサービスは1%)
※減算の対象は「①計画の未策定」「計画に従った必要な措置の未実施」のみ。②〜④の未実施は運営指導での指摘対象

こちらは「立地に関係なく、すべての事業所が対象」です。区域外だからBCPは要らない、ということはありません。

減算の対象は、BCPが未策定、または計画に従った必要な措置を講じていない場合です。研修・訓練の未実施そのものは減算の算定要件ではありませんが、運営基準上の義務であるため、運営指導で指摘・是正の対象となります。

4. 何が重なり、何が違うか(比較表)

両者を並べると、違いがはっきりします。

避難確保計画とBCPの比較表。避難確保計画は、根拠法=水防法・土砂災害防止法、目的=避難させる、対象=浸水想定区域・土砂災害警戒区域内の要配慮者利用施設(介護に限らず医療・学校も対象)、義務=計画作成・市町村への報告・避難訓練の実施、未対応の場合=市町村からの指示・公表の対象。BCPは、根拠法=介護保険の運営基準、目的=避難+事業継続、対象=すべての介護事業所、義務=計画の策定・研修・訓練・定期的な見直し、未対応の場合=業務継続計画未策定減算。下部に「別の制度。片方があっても、もう片方は免除されない」「避難トリガーを警戒レベル3(高齢者等避難)で統一し、両計画の要点を1枚のアクションカードにまとめる」と記載。

▲ 避難確保計画とBCPのちがい

重なる部分

避難の判断基準、避難経路、利用者の名簿、緊急連絡先、備蓄——このあたりは両方の計画に登場します。だからこそ、内容がずれていると危険です。片方の計画には「2階へ垂直避難」と書き、もう片方には「近隣の小学校へ水平避難」と書いてあれば、現場は本番で迷います。

決定的に違う部分

避難確保計画には「避難したあと」がありません。逃げ切るところまでが守備範囲だからです。一方BCPは、そこから先——停電・断水のなかで利用者の生活をどう支えるか、いつ・どの業務を再開するか——を扱います。

避難したあとの事業継続については、関連記事「停電・断水で介護施設は何が止まる?」で詳しく解説しています。建物へ戻る判断は「地震のあと、いつ建物に戻ってよい?」をご覧ください。

5. 自施設に避難確保計画が必要か確認する

「うちは対象なのか分からない」という場合、次の順で確認します。

① ハザードマップで区域を確認する:国土交通省「重ねるハザードマップ」で、自施設の住所を検索します。浸水想定区域や土砂災害警戒区域にかかっているかが分かります。
② 市町村の地域防災計画を確認する:対象となるのは、地域防災計画に施設名が定められている要配慮者利用施設です。区域内にあっても、名称が記載されていなければ義務の対象外となる場合があります。
③ 市町村の防災担当に問い合わせる:最終的な確認はここが確実です。すでに提出済みかどうかも含めて確認できます。

重ねるハザードマップの具体的な使い方(4ステップ)と、見るときの落とし穴は「気象予報士が教える!介護施設の災害リスクの調べ方」で解説しています。
専門家コメント|気象予報士・災害リスク分析の視点

2つの計画を別々に運用していると、避難を始めるタイミングがずれるという怖い事態が起こります。片方に「警戒レベル4(避難指示)が出たら」、もう片方に「警戒レベル3(高齢者等避難)で」と書いてあれば、現場はどちらに従うか迷ってしまう。

介護施設は要配慮者利用施設として、警戒レベル3(高齢者等避難)の段階で避難を始める立場です。この基準を両方の計画で必ず揃えてください。避難の判断は、迷った時間の分だけ確実に遅れます。

6. 現場が使うのは1枚。統合のコツ

制度としては2つの計画が必要ですが、災害のときに職員が見るのは1枚です。分厚いファイルを2冊めくっている余裕はありません。

おすすめは、両計画の要点を1枚のアクションカードにまとめ、それを両方の計画の付録として共有することです。

カードに載せる項目内容の例
いつ動くか警戒レベル3(高齢者等避難)が出たら避難開始。両計画で統一
誰が決めるか施設長。不在時の代行順位も明記
どこへ避難するか水平避難先/垂直避難先。それぞれの判断基準
誰に連絡するか市町村・家族・協力医療機関・系列施設
避難したあと持ち出し品、電源、次に再開する業務の順番(BCP側の内容)

作成の順番としては、先に避難確保計画(避難のトリガーと経路)を固め、その上にBCP(避難後の継続)を重ねるとスムーズです。時系列がそのまま計画の順番になります。

専門家コメント|元航空自衛官・危機管理の視点

計画書が2冊あること自体は問題ありません。制度が別なので、書類が別になるのは当然です。問題になるのは、現場に渡すものまで2つになっているときです。

緊急時に人が確実に扱えるのは、1枚です。それ以上あると、どちらを見るかの判断が挟まり、その分だけ動き出しが遅れます。計画は制度に合わせて2つ、現場に渡すものは1枚に。この切り分けを意識するだけで、実際の動きは大きく変わります。

\ 無料・登録不要・約3分 /
あなたの施設のBCPは「動ける」?18問でスコア判定
策定・訓練・実効性・災害リスク・体制の5分野を100点満点で診断。改善点がその場で分かります。 ▶ 診断をはじめる

7. よくある質問(FAQ)

Q1. 避難確保計画とBCPは、両方作らないといけませんか?

結論から言うと、根拠法も目的も異なる別の制度のため、片方があってももう片方は免除されません。BCPは介護保険の運営基準に基づき、すべての介護事業所に策定が義務付けられています。避難確保計画は水防法・土砂災害防止法に基づき、浸水想定区域や土砂災害警戒区域などに立地し、市町村の地域防災計画に名称が定められた要配慮者利用施設に作成が義務付けられています。自施設が区域内にあるかどうかは、国土交通省「重ねるハザードマップ」や市町村の地域防災計画で確認してください。

Q2. 避難確保計画を作らないと、どうなりますか?

結論から言うと、市町村長からの指示・公表の対象となり得ます。水防法・土砂災害防止法では、計画を作成しない施設に対して市町村長が必要な指示を行うことができ、その指示に従わなかった場合には、その旨を公表することができるとされています。介護報酬の減算とは別の枠組みです。BCPの未策定は業務継続計画未策定減算の対象で、こちらは介護保険の運営基準に基づく仕組みです。仕組みが違うため、どちらか一方を満たしていても、もう一方の不備はそのまま残ります。

Q3. 避難訓練は、避難確保計画とBCPで別々に実施する必要がありますか?

結論から言うと、兼ねること自体は考えられますが、それぞれの計画の目的に沿った内容と記録が必要になります。避難確保計画では避難訓練の実施に加えて、その結果を市町村長へ報告することが義務付けられています。BCPの訓練は事業継続の観点(重要業務の優先順位、代替手段、応援体制など)を含む必要があります。兼ねる場合は両方の記録を残し、最終的には所管の市町村(防災担当)と指定権者の双方に確認することをおすすめします。

8. おわりに:書類は2つ、行動は1つ

避難確保計画とBCPは、根拠法も目的も対象も違う、別の制度です。まずはこの前提を押さえたうえで、自施設がどちらの対象になるかを確認してください。

そのうえで大切なのが、現場に渡すものは1枚にすることです。制度は制度として満たしつつ、災害のときに職員が迷わず動ける形をつくる——ここまでやって、はじめて計画が意味を持ちます。

「自施設が避難確保計画の対象か分からない」「2つの計画の整合を取りたい」「アクションカードを一緒に作ってほしい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「本当に動ける危機管理ノウハウ」で、御社の計画づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。

主な出典・参考

  • 国土交通省「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き」(洪水、雨水出水、高潮、土砂災害、津波)
  • 国土交通省「水防法等の一部を改正する法律 よくある質問Q&A」(未作成時の指示・公表、訓練結果の報告義務)
  • 水防法・土砂災害防止法(要配慮者利用施設の避難確保計画に関する規定)
  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン等」
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A」(業務継続計画未策定減算の取扱い)
  • 国土交通省「重ねるハザードマップ」(浸水想定区域・土砂災害警戒区域の確認)

※ 避難確保計画の対象施設は市町村の地域防災計画で定められます。自施設が対象かどうか、また訓練の兼用可否については、所管の市町村(防災担当)および指定権者にご確認ください。

気象予報士
×
元自衛官
西 倫弘(にし ともひろ)
気象予報士・元航空自衛官
航空自衛隊で培った危機管理の実務と、気象予報士としての災害リスク分析を掛け合わせ、介護施設のBCP策定支援と体験型防災研修を提供。「書類で終わらせない、本当に動ける防災」を全国の施設へ届けています。

2つの計画、ちぐはぐになっていませんか?

「対象かどうか確認したい」「2つの計画の整合を取りたい」——そんな内容で大丈夫です。
元自衛官・気象予報士が無料でご相談に乗ります。鹿児島からオンラインで全国対応。

無料相談を申し込む