介護施設の安否確認システムは導入すべき?無料手段(LINE・171・web171)との比較と判断基準
「安否確認の連絡網は作った。でも、有料のシステムを入れるべきなのか判断がつかない」——連絡網を整えた次の段階で、必ず出てくる悩みです。
結論から言うと、答えは「規模」で分かれます。1拠点・少人数なら無料手段(LINEグループ+災害用伝言ダイヤル171・web171)で十分です。一方、多拠点や夜勤交代制で、集約する担当者の負荷が高い事業所は、一斉送信・自動集計できるシステムの費用対効果が出ます。
この記事では、システムの機能と無料手段でできることを対比し、判断基準4つ、有料システムを選ぶときのチェックポイント、そして導入する・しないに関わらず先にやるべきことを、元自衛官・気象予報士の視点で整理します。特定のベンダーは挙げません。
1. 【結論】規模で分ける:1拠点・少人数は無料で十分、多拠点・夜勤交代制はシステム
まず結論からお伝えします。
- 1拠点・職員30名未満:LINEグループ+171・web171の無料手段で十分。集約担当1人で手動集計できる。
- 多拠点、または夜勤交代制で集約担当の負荷が高い:一斉送信・自動集計・未回答の可視化ができるシステムの費用対効果が出る。
- どちらの場合も、171・web171は全職員が使える状態にしておく。システムは効率化、171は通信途絶時のセーフティネット。
「職員30名」は絶対の線ではなく、1人の集約担当が電話とLINEで手動集計できる限界の目安です。自施設の数字は、第6章で紹介する「無料手段で一度本気で回してみる」ことで分かります。
▲ 判断は規模で分かれる。どちらでも171・web171は全員が使える状態に
2. 安否確認システムの機能:何が自動化されるのか
有料の安否確認システムが自動化してくれるのは、主に次の4つです。
| 機能 | 手動でやると | システムなら |
|---|---|---|
| 一斉送信 | 連絡網の順に電話・LINEで回す。途中で止まる | 地震などの発生をきっかけに全職員へ自動送信。未回答者に自動で再送 |
| 自動集計 | 返事を名簿に転記する。集約担当が1人だと追いつかない | 回答が一覧に集まり、「無事/出勤可/出勤不可」などが即時に集計される |
| 未回答の可視化 | 誰から返事がないか、名簿を見比べて探す | 未回答者だけを一覧表示。そこに電話を集中できる |
| 多拠点管理 | 拠点ごとに集約し、法人本部へ電話で報告 | 拠点別・法人全体の状況を1画面で把握 |
料金は、職員1人あたり月数百円の人数課金型や、人数枠ごとの定額型が一般的です。「安いか高いか」ではなく、上の4つのうち、自施設で手動だと破綻するものがいくつあるかで判断します。
3. 無料手段でどこまでできるか(LINEグループ・171・web171)
LINEグループ:平時から使っている手段が、非常時にも一番届く
職員全員が入っているLINEグループは、安否確認の第一手段として十分機能します。「無事なら『無事』とだけ返信」「出勤できるなら『出勤可+到着見込み時刻』」のように、返信の型を決めておくだけで集計が楽になります。大規模災害時には、LINEのホーム画面に安否確認の機能が表示され、タップするだけで友だちに状況を共有できる仕組みもあります。ただし、この機能は「友だち」単位のため、施設として集約するにはグループでの返信ルールが別途必要です。
災害用伝言ダイヤル171・web171:通信が混雑しても残る手段
171は電話番号をキーにして音声を録音・再生するサービス、web171は文字で登録・閲覧するサービスです。両者は連携しており、171で録音した伝言をweb171で確認することもできます。携帯電話からも使えます。
無料手段の限界
無料手段の限界は「届くかどうか」ではなく「集約する人の手が足りるかどうか」です。30人分の返信を名簿に転記し、未回答者に電話をかけ、法人本部に報告する。これを1人でやると、30分では終わりません。しかも夜勤帯なら、その1人は利用者対応も兼ねています。連絡網の作り方と多重化の考え方は「介護施設の安否確認体制の作り方」で解説しています。
4. 判断基準4つ:職員数・拠点数・夜間対応・集約担当の負荷
| 判断基準 | 無料手段で十分 | システムを検討 |
|---|---|---|
| ① 職員数 | 30名未満の目安。1人で手動集計が回る | 30名以上、または非常勤・登録ヘルパーを含めると連絡先が把握しきれない |
| ② 拠点数 | 1拠点 | 2拠点以上で、法人本部への報告が必要 |
| ③ 夜間対応 | 日勤帯中心で、夜間は少人数固定 | 夜勤交代制で、夜間に集約担当が利用者対応と兼務になる |
| ④ 集約担当の負荷 | 訓練で30分以内に全員の安否が把握できた | 訓練で30分を超えた、または未回答者を追い切れなかった |
4つのうち「システムを検討」に2つ以上当てはまるなら、導入の費用対効果が出やすい状態です。逆に1つ以下なら、無料手段の運用ルールを磨く方が先です。
有料システムを入れる前に、無料手段で一度は本気で運用してみることをおすすめします。新しい道具を入れる前に、今ある手段でどこまでできるかを測っておく——これは私が現場で大事にしてきた考え方です。「何人までなら手動で集約できるか」を体感しておくと、システム導入時の要件が明確になり、ベンダー選定でも失敗しません。
5. 有料システムを選ぶときのチェックポイント
導入を決めた場合、機能の多さではなく次の3点で比べてください。
| チェックポイント | 確認すること |
|---|---|
| ① 回答率が上がる仕組みか | 未回答者への自動再送があるか。回答が「ワンタップ」で済むか。アプリ・メール・SMSなど、職員が普段使う手段で届くか |
| ② 通信手段が多重化されているか | メールが止まってもSMSやアプリ通知で届くか。停電・基地局被害を想定した設計になっているか |
| ③ 訓練モードがあるか | 本番と同じ操作で訓練送信ができ、回答率と所要時間が記録として残るか。BCP訓練の記録に転用できるか |
安否確認システムを入れても、通信インフラが落ちれば動きません。基地局被害や停電時のバックアップとして、必ず171・web171の使い方を全職員が知っている状態にしておいてください。システムは平時と中規模災害の効率化、原始的な手段は大規模災害のセーフティネットです。
6. 導入前に必ずやること:無料手段で運用ルールを固める
システムを入れる・入れないに関わらず、先に固めるのは「ルール」です。
- 返信の型を決める:「無事/出勤可・到着見込み/出勤不可」の3択。自由記述にしない
- 集約担当と代理を決める:夜勤帯は誰が集約するか。管理者不在時の代理も
- 締め切りを決める:「発災から30分で一次集計、60分で未回答者に電話」
- 第二手段を決める:LINEが届かなければ171・web171。施設の代表番号で登録する
- 訓練で測る:一斉送信から全員把握までの所要時間と回答率を記録する
⑤で測った数字が、そのままシステム導入の判断材料になります。「30分で回った」なら無料手段を続け、「60分かかった」ならシステムの要件が見えています。訓練の組み方は「介護BCP訓練はどう進める?そのまま使えるシナリオ3例」、通信が止まったときの対応は「停電・断水と事業継続」、判断する人が動ける体制づくりは「有事に動ける組織のつくり方」で解説しています。
7. よくある質問(FAQ)
Q1. LINEグループだけで安否確認は足りますか?
結論から言うと、1拠点・少人数であれば、日常の連絡手段として定着しているLINEグループは安否確認の第一手段として十分機能します。ただし、通信が混雑・途絶した場合は届かないため、必ず災害用伝言ダイヤル171・web171を第二手段として決めておき、誰が集約して誰に報告するかのルールを紙でも持っておく必要があります。LINEだけに頼るのではなく、多重化が前提です。
Q2. 災害用伝言ダイヤル171は携帯電話からも使えますか?費用は?
結論から言うと、携帯電話からも利用できます。171は電話番号をキーにして音声を録音・再生するサービスで、web171は文字で登録・閲覧するサービスです。両者は連携しており、171で録音した伝言をweb171で確認することもできます。通話料は、NTT東日本・西日本の電話からの録音・再生は無料ですが、携帯電話など他の事業者からの場合は各社の扱いによります。毎月1日・15日、正月三が日、防災週間(8月30日〜9月5日)、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)に体験利用ができるので、研修や訓練の日に合わせて全職員で試しておくのがおすすめです。
Q3. 有料の安否確認システムを入れれば、訓練は不要になりますか?
結論から言うと、なりません。システムは「連絡を送る・集計する」作業を自動化するだけで、職員が回答する習慣がなければ回答率は上がりません。多くのシステムに訓練用の送信機能があるので、BCP訓練の一部として定期的に一斉送信を行い、回答率と未回答者のフォロー手順を確認してください。回答率の実測は、システムが本当に役立っているかを判断する唯一の材料です。
8. おわりに:道具より先に「ルール」と「訓練」
安否確認システムは、入れれば安心になる道具ではなく、集約担当の手が足りない事業所の作業を肩代わりする道具です。手が足りているなら、無料手段で十分です。足りていないなら、システムは確実に効きます。
どちらの場合も、返信の型・集約担当・締め切り・第二手段の4つのルールと、それを測る訓練が先です。ルールがないままシステムを入れても、回答率は上がりません。
「うちの規模ならどちらか判断してほしい」「訓練で所要時間を測る方法を知りたい」——そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。気象予報士としての「正確な災害リスク分析」と、元自衛官としての「本当に動ける危機管理ノウハウ」で、御施設の安否確認体制づくりを支援します。拠点の鹿児島からオンラインで全国対応しています。
主な出典・参考
- 総務省「災害用伝言サービス」(災害用伝言ダイヤル171・災害用伝言板web171の概要と体験利用日)
- NTT東日本・NTT西日本「災害用伝言ダイヤル(171)」「災害用伝言板(web171)」(利用方法・相互連携・通話料)
- 一般社団法人電気通信事業者協会「災害用伝言ダイヤル(171)、災害用伝言板(web171)、ケータイ災害用伝言板」
- LINE「LINE安否確認を利用する」(LINEみんなの使い方ガイド)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(安否確認の位置づけ)
※ 安否確認システムの機能・料金は各サービスにより異なります。本記事は特定のサービスを推奨するものではありません。本記事の内容は2026年9月時点の情報です。
「システムが要るかどうか」から、一緒に判断しませんか?
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